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    <title>SM小説</title>  
    <link>http://ameblo.jp/smking/</link>  
    <description>酒を飲みながら書く小説</description>  
    <language>ja</language>  
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      <title>３</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p><font size="3">　すまない。男が</font><font size="3">そう言いたそうな顔をしているようにみえた。男は何も言わず、黒字の生地でできた布を、あいの両目に覆った。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「これから幾つか質問をするので、速やかに答えてほしい。時間はあまり残されていない」</font></p>
<p><font size="3">　何かに追われているような、何かを恐れているような、自分の意思とは別の力が見え隠れするような、焦った口調で、それでいて正確なメッセージだとあいは思った。</font></p>
<p><font size="3">「はい、わかりました」</font></p>
<p><font size="3">「自分が何故こういう立場にあるか、思い当たる事はありますか？」</font></p>
<p><font size="3">「いいえ、ありません」</font></p>
<p><font size="3">「あなたは自分の性格を客観的に分析したことはありますか？」</font></p>
<p><font size="3">「……無いと思います」</font></p>
<p><font size="3">　そう答えると、カチッカチッという機械音が鳴り出した。そのときにそれが何なのかは、目隠しをされているあいには知る術が無かった。</font></p>
<p><font size="3">｢あなたはこれからどうなると思いますか」</font></p>
<p><font size="3">「……すみません。質問の意味がわかりません」</font></p>
<p><font size="3">　男は何も言わず、次の質問を続けた。</font></p>
<p><font size="3">「猫を飼われていますね」</font></p>
<p><font size="3">「はい」</font></p>
<p><font size="3">「お名前は何ですか？」</font></p>
<p><font size="3">「あいです」</font></p>
<p><font size="3">「違います。猫の名前を聞いています」</font></p>
<p><font size="3">「猫です」</font></p>
<p><font size="3">　男は一瞬、考えたがあいの言っている言葉の意味を理解した。</font></p>
<p><font size="3">「猫という動物に猫という名前をつけたんですね。それは何故ですか？」</font></p>
<p><font size="3">｢猫自身は、自分の名前を認識していないと思うからです｣</font></p>
<p><font size="3">　あいは半分本当で半分嘘のような答えを言った。</font></p>
<p><font size="3">｢有名人の急死をどう思いますか？｣</font></p>
<p><font size="3">｢例えば誰のことでしょうか？」</font></p>
<p><font size="3">　あいは質問を仕返した。</font></p>
<p><font size="3">「あなたに質問する権利は今ありません</font><font size="3">」</font></p>
<p><font size="3">　信号が赤から青に変わり、交差点の先頭で停車している車が発進する。そのくらいの間が空いた。</font></p>
<p><font size="3">「他人の死に特別な意見はありません」</font></p>
<p><font size="3">「自分が死ぬとわかった場合、どう思いますか」</font></p>
<p><font size="3">「不安な気持ちになると思います」</font></p>
<p><font size="3">　カチカチカチと機械音のテンポが速くなった気がしたが、あいの心拍数は安定していった。</font></p>
<p><font size="3">「どころで今あなたは不安ですか」</font></p>
<p><font size="3">「……不安です」</font></p>
<p><font size="3">　あいは不安な気持ちをそのとき持っていなかったが、そう答えるのが一番良いと何故か思った。</font></p>
<p><font size="3">「あなたの猫は先ほど私が殺しました」</font></p>
<p><font size="3">　あいはその理由を聞こうとしたが、私が質問するのは駄目だと思い出した。</font></p>
<p><font size="3">「それは悲しいことです」</font></p>
<p><font size="3">「これからあなたはその猫と同じ死に方をすることになりますが、どうされると思いますか？」</font></p>
<p><font size="3">「えっ」</font></p>
<p><font size="3">　男が少し遠くへ歩く足音が聞こえた。数メートル先で止まり、再び元の立居地に戻ってきた。</font></p>
<font size="3"><p><font size="3">「これからあなたはその猫と同じ死に方をすることになりますが、どうされると思いますか？」</font></p>
<p>　男は同じ質問を繰り返した。</p>
<p>「先から聞こえる何かのカウント音。きっと爆弾で爆発されるのではないでしょうか」</p>
<br />
<p>　少しの沈黙があった。あいには、男のため息がかすこに聞こえた気がした。</p>
<br />
<p>「質問は以上です。一つだけあなたからも質問を受け付けます。慎重に考えて下さい」</p>
<p>　あいは即答した。</p>
<p>「質問は特にありません。思ったことを少しだけ述べます。死ぬはずだった自分を救ってくれた命の恩人であるあなたが、再びこうして私の命を奪うことに少なからずの戸惑いがありました。今はもうその気持ちは落ち着いていると思います。きっと私から見て正面、あなたから見た後方に、この光景を遠方で観察できる小型カメラか何かがあると思いますので、私のこの発言がプラスに働くかマイナスに働くかはわかりかねますが、あなたは何かの圧に怯えている。私にはそう感じる。以上です」</p>
<br />
<p>　男の足音は次第に遠くなり、玄関のほうからドアを施錠する音が聞こえた。ほどなくして、カチカチという音にピーピーという警戒音が重なった。何かわからないが、自分の予想があっているのなら、間もなく爆発するのだろう。</p>
<br />
<p>「さようなら、市川さん」</p>
</font>
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-11164149080.html</link>  
      <pubDate>Mon, 13 Feb 2012 23:01:28 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>２</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p><font size="3">　目を覚ますと、そこはとても見慣れた空間だった。ついさっき後にした自分の部屋に後戻りしていたからだ。</font></p>
<p><font size="3">　あいにとって、正確には”ついさっき”と断定することはできない。何故なら、あいの部屋には一切時間のわかるアイテムが無いからだ。</font></p>
<p><font size="3">　掛け時計も置き時計も無い。昔から秒針の”カチッカチッ”という音が苦手だったため、デジタル時計を所有していたのだが、そのデジタル時計は時間がわかりにくい(目線的に見えにくい)という理由で一切合切無となった。何なら携帯電話があればいいとさえ思っていた。</font></p>
<p><font size="3">　そんな携帯電話を見ようにも両手がいうことを効かないのだと知ったから、正確には”ついさっき”と断定することはできないのだ。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　猫はどこへ行ったのだろう？　あいは自分の危険も、自分をこうして拘束した”誰か”も一旦置いといて、餌を食べていたあるいは水を飲んでいた猫の安否を心配した。</font></p>
<p><font size="3">　自分が部屋に戻れば、にゃあとじゃれてくる性格を考えると、私同様に自由にならない状況にあるのかと不安に思った。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　外を見ようにも厚手の遮光カーテンは閉まっていて、部屋の内部は暗がりだ。さっきの爆発から1時間も経っていないのか、1日以上経過しているのか、あいには全く想像はできなかった。</font></p>
<p><font size="3">　ところで何が爆発したのだろう？　あいは疑問に感じ始めた。体が吹っ飛ぶくらいなのだから、車かマンションの何がしのタンクか、あるいはマンション自体かと思った。しかし私がこうして自分の部屋に居るからには、きっとマンション自体は大丈夫なのだろう。いや少なくとも自分の部屋は……と心の中で補足した。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　しかし幸いなことにその後、何時間経っても周りから火の手が上がり、身体に危機的な状況が訪れることは無かった。</font></p>
<p><font size="3">　不幸なことは、その逆で何時間経っても何も変化が無い状況のままであることだった。誰も来ないし、何も起こらない。これが小説の世界だったら最悪だなと、あいは考えた。こんな展開の無い本は読みたくないし、きっとその続きを読んだとしても時間が無駄と感じるだけの、それはそれは途方も無い無駄を得ることだろう。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　永遠と同じ姿勢で同じ景色を眺めていることにもそろそろ飽きてきた頃、あいはあることに気づいた。それは子供の頃に楽しみにしていた、日曜の朝刊に連載されている間違え探しに似ていると思った。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　壁の質感が微妙に違う気がする。部屋の臭いが違う気がする。朝置いていった猫の餌と餌容器が見当たらない。気持ち天井が低くなった気がする。人力で対策できる変化点もあるが、ようくようく観察すると、ここは自分の部屋ではない気がしてきた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　それは何と言えばいいか、限りなく私の部屋に様相を近づけた、全く別の部屋。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　そう思い立ったところで、玄関の鍵を施錠する音が聞こえた。誰かが入ってきたが、まだその姿は見えない。あいは自分の心拍数が上がるのを冷静に感じていた。</font></p>
<p><font size="3">　しかしそこに姿を現した人物が意外だったため、一瞬にして冷静ではいられなくなった。</font></p>
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-11163084405.html</link>  
      <pubDate>Sun, 12 Feb 2012 21:53:35 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>１　</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p><font size="3">　昨夜の記録的な豪雨は収まっていたが、濁流と化したちっぽけな川がその表情を変えていた。</font></p>
<p><font size="3">　テレビを観ながらあいは考える。前日まで存在していたであろう目に見えない大きさの動植物は、どれだけか数を減少させただろう。でもそんなことはどうでもいい。うちの猫が元気ならそれでいい。</font></p>
<p><font size="3">　そこに、他を思いやらない冷酷さは存在していない。そもそも全てに優しく、全てを包み込むことはできない。そんなことを言える人間は嘘つきだ。そういった信念があいにあった。</font></p>
<p><font size="3">「何で猫はニャアしか言えないのだ？」</font></p>
<p><font size="3">「にゃああ」</font></p>
<p><font size="3">　猫は両後ろ足でバランスを作りながら、両前足を使ってあいにじゃれてきた。あいによって爪を綺麗に尖れたため、あいの衣服に取っ掛かりがなく、両前足を床に付けることになった。</font></p>
<p><font size="3">　あいは猫の名前を猫と名付けた。正確には、猫に名前を付ける必要が無いと考えた。猫は猫でいい、だから名前も猫でいい。</font></p>
<p><font size="3">　銀色の容器に固形の餌を入れた。その隣には飲みやすい高さのコップに水を溜めた。トイレの砂を取り替えて燃えないゴミに入れた。これを燃やしたらどんな臭いがするのか気になって、家を出た。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　空はどんよりして雨が降りそうだった。昨夜の雨が止んだというよりは、昨夜の雨が一旦休憩しているような感覚を持った。同時に、重たくてやる気をそぐような空気の臭いが鼻をついた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　マンションを数メートル離れ、車のドアを開く刹那、後ろからの爆風であいは吹き飛んだ。コンクリートに頭を打って、そのまま意識を失った。猫の心配をする前に気を失った。</font></p>
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-11148568440.html</link>  
      <pubDate>Sat, 28 Jan 2012 18:12:16 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>何色でもなかった猫</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p><font size="2">　何箇所か下水道へ繋がっている出入口がある。鼻に付く異臭が辺りを立ち込めており、それは心の中を汚していくのを知っている。その手前から限界まで息を止めて小走りに歩き、やり過ごそうとする。</font></p>
<p><font size="2">　生活排水という言葉で片付けることは容易じゃない、複雑な心境の生い立ちの過程の奴等が漂っているのだ。</font></p>
<p><font size="2">　その後に、弁当屋裏から油っぽい臭いが続いてくる。コロッケだろうか、トンカツだろうか、エビフライだろうか、重くて湿った臭いだ。</font></p>
<p><font size="2">　止めにラーメン屋の裏からは、何年か経過したようなトンコツの臭いが覆いかぶさってくる。<br />
</font><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　下水と油とトンコツが重なってきた。</font></p>
<p><font size="2">　とても苦労して倒した余韻に浸っていたらセーブをし忘れ、連続で同じくらいとても苦労しそうな予感な奴が出てきてハラハラして、それも何とか乗り越えたと思ったら停電して、一からやり直しの時のような不運だ。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　真っ暗な小道に、小規模ながら電灯と呼んでいいのか気を使うような、小さな光がちっぽけな物体どもを灯している。自動販売機の灯りと薄呆けたアポートからの明かりがそれを後押しして、辛うじて人が歩くことを許す光度に達している。</font></p>
<p><font size="2">　そこを見てと言われない限りは、見てもらえないような場所には、圧倒的に落ち着く空間が眠っている。機械的で雑居で誰も気づかない死角。私はその場に座り込み空を見上げた。もう辺りに腐敗臭は漂っていなかった。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　黒い空に白い月が浮かんでいる。その月は異常なまでに目立って誰からも隠れようがない存在感を醸し出している。銀幕のスターもハリウッドの馬鹿も汚染された男優も適わない色彩だ。それが才能というカリスマ的な存在と定義できるのだな、と思ったら赤い猫と目が合った。<br />
　赤い猫は奇妙な泣き声をする。普通、猫の鳴き声と連想すればにゃあにゃあとかみーみーとか言いたくなるものだが、そいつときたらまるっきし常軌を逸することをしてくれる。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　せちゃつはわにえをえようど？</font></p>
<p><font size="2">　いいえ。私は通りすがりの市民です。あなたの欲求を満たすノウハウは合わせ持っちゃいませぬ。</font></p>
<p><font size="2">　せちゃつははてこのえをとおど？</font></p>
<p><font size="2">　はい。私は生きるゆえ、このえをとおど。</font></p>
<p><font size="2">　せちゃつはいくすえにこのほをさずればりりんする？</font></p>
<p><font size="2">　いいえ。私はただこの空間に存在し、この空間と共有し、この他愛も無い日常に最高の欺瞞を行ずるべくことをばとおど。</font></p>
<p><font size="2">　せちゃつはおもかゆい。せちゃつはいっこくもなおはえばされ。</font></p>
<p><font size="2">　おおせのとおりに。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　辺りは急に明るくなることもせず、澄み切った空気も提供できず、その場の状態を維持することに精一杯だと主張した。</font></p>
<p><font size="2">　二なりの呪いが両者を待ったした。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　せちゃつはどこがしん？</font></p>
<p><font size="2">　私は赤い猫をはじめて見た、せちゃつは世にそぐわない。どうか仰せのままに消えゆかん。</font></p>
<p><font size="2">　うむ、わはこれぞいかん。すにもうらのゆくいわばんばこれもまたしらもうせよ。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　赤い猫は少しずつ体を揺らしながら、少しずつ体を大きくしながら、空気と空気の間にある微妙な隙間に入っていった。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　赤い猫は、青い猫に姿を変えて現れた。見てと言われない限りは、見てもらえないような場所に、もう青年は座っていなかった。</font></p>
<p><font size="2">　パンクしてしまったボールが、暗く沈黙した校庭に転がっている。例え日中に赤い太陽が校庭を照らしたとして、そのボールがどんな競技にしようされる物体なのか長考させられるほど泥で汚れているだろう。</font></p>
<p><font size="2">　今、校庭から子供たちの笑い声は聞こえてこない。この空間に存在が確認できるのは青い私と、結局存在は目視で確認できない微生物しか残っていないと推定する。そんなはずの空間に、もしも別の何かが浮遊していたら身震いするだろう。それらは結局のところ人間の頭の中で創造されたものであろうに、その創造が想像へ変わり、やがて身を震わすのだろう。</font></p>
<p><font size="2">　そんなことはこの校庭以外でも容易に考えることができる。自然を破壊しても、動物を殺めても、兵器を開発しても、追尾機能搭載の運命が決定を覆すことは無いのだろう。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　見て、あそこに青い猫がいる。</font></p>
<p><font size="2">　やれやれまた人に会った。体を大きくして発光しよう。</font></p>
<p><font size="2">　静寂した黒い校庭に、明るい青色光が円を作った。その円はよく見ると楕円だった。</font></p>
<p><font size="2">　見て、光ったよ。子供たちは恐れを露にして走り去った。一晩の眠りで忘れることのできる記憶には、海馬の許しを得られそうに無い。タメ息がオゾン層を破壊する前に次の空間へ移ろう。</font></p>
<p><font size="2">　青い猫は先ほどしたのと同じように空気と空気の間にある微妙な隙間に入っていった。でも体は揺れなかったし大きくもならなかった。この動きは不要にして移動できるんだと誰かが気づいてくれるかな？　と誰も居るはずの無い空間を眺めてた。</font></p>
<p><font size="2">　そうかあれはボールではなくてラーメンの器だね。何故校庭にラーメンの器が捨てられているのだろうか。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　赤い猫は青い猫に姿を変え、次は何色に変化するのか楽しみにさえなっていた。しかしそれはこの世で表現できない唯一無二の色だった。これは何色か？　と尋ねられても、言語としては決して表現することができない色だった。何色にも似つかない、でも透明ではない、そんな心の休まらない色だった。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　世界は一瞬で一変した。それは天災や科学的な力によるものではなく、心霊的で非現実的な臭いが漂う予感を常に保っていた。猫はどうやら逃げ道を間違えたのだと考えた。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　そこは何も無い世界だった。光は無いが暗闇ではない。生き物は皆無だが何かの気配はする。地面は無いが下に落ちることは無い。空気も無い様子だからとわかったが息苦しくもない。きっと食料はおろか水も原子も無いのだろう。存在が許されない世界。世界ということすらままならない空間。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　そこにある形を認めることができた。それは始めてみるようで、たった先に見たようでもあった。そうだ、あれはラーメンのどんぶりではないかと推測する。その物体と距離感がわからないし、縮める方法が存在しないことから、これ以上考えを深くに達する術は無いのだと諦めた。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　きっと私と一緒に迷い込んでしまったに違いない。そして私は不安に落ちた。空気の無い空間には隙間が無い。私はここから別の箇所へ移動することができないのだと痛感した。やっと落ち着いて身を休めることができると、プラスに考えた。これ以上、私は考えることは無い、動かない、死ぬこともないし生きる意味もなさない。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　2年後。ビッグバンが起こる。</font></p>
<p><font size="2">　その38万年後、銀河系が形成される。</font></p>
<p><font size="2">　更にその85億年後、地球が誕生した。</font></p>
<p><font size="2"><br />
</font></p>
<p><font size="2">　猫は思った。退屈は残酷だ。どうか生命に寿命を作ろう、そして寿命を待たず死する運命を設けよう。</font></p>
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-10885863430.html</link>  
      <pubDate>Sun, 08 May 2011 22:44:42 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>のような奴</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p><font size="3">　毎年十二月を迎えるとイーリンが現れる。綺麗に櫛を通された黒髪、少し釣りあがった目、小さい鼻、少し暑い唇。人に例えると、どことなく中国人を思わせるから、イーリンと言う名前を付けた。</font></p>
<p><font size="3">　イーリンは私の用意した赤いチャイナドレスを纏い、自分の姿を立ち鏡に映していた。彼女の目線は、彼女自身とは別の何かが映っているようだ。</font></p>
<p><font size="3">　イーリンは息をしない。食事も取らない。寝ない。とても不思議な存在だ。</font></p>
<p><font size="3">　動くことと、人に似た容姿をしているところ意外は、人と異なっているように思える。血流が無いから心臓も無いようだ。息をしないから肺も無いのだろう。考えているのか、考えていないのか、脳あるいは脳のようなものはあるようだ。とても不思議な存在だ。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　イーリンは何度注意しても車に轢かれる。その度に体がバラバラになる。運転手は青ざめた顔で駆け下りてきたり、スピードを倍に加速して逃げたりした。</font><font size="3">私はイーリンを抱えて、何事も無かったように歩く。少し時間が経つと、バラバラになった体は、いつの間にか元に戻っている。元に戻る瞬間を目にしたことは、まだ一度も無い。死に際に消えてしまう猫のように、戻る瞬間を絶対に目に入れさせてはくれないのだ。</font></p>
<p><font size="3">　イーリンは直ぐに誘拐される。男子トイレの横に置いといたイーリンは忽然と姿を消してしまう。そんな時は探しても見つからないのだが、必ず同日の夜には家に一人で戻ってくる。何があったのか、誰に連れて行かれたのか、そんなことを問いかけても何も教えてはくれない。</font></p>
<p><font size="3">　イーリンはその他にも、高いところから落ちてしまうし、水に沈んでしまうし、火を触って燃えてしまう。その度に周りの人間は、一瞬硬直する。少し経ってイーリンに駆け寄る、しかしイーリンは何事も無かったように、とことこと歩き出すのだ。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　週に一度、新しいチャイナドレスを買いに行く。</font><font size="3">彼女の手を引いて、それらしい店に入る。店内には色彩豊かなチャイナドレスが飾られている。足首までのサイズとミニスカートのサイズがある。黒いミニスカート風を選び購入する。</font></p>
<p><font size="3">　家に戻りセックスをする。人の女性器にそっくりな部分へ挿入し腰を動かす。イーリンは声を出さないし、感じることも無いので無表情のままだ。非常に淡白な手淫をしている気分になる。最後はそのまま中へ出してしまう。きっとイーリンは何も思っていないだろう。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　年末を向かえ大晦日の深夜が迫ってくる。イーリンの体は少しずつ透明になり、見えなくなっていく。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　また来年もお願いします。</font></p>
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-10885818215.html</link>  
      <pubDate>Sun, 08 May 2011 22:43:03 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>そこまではよかった</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p><font size="3">　単調な造りの部屋には、そこにあるべき物しか無かった。まあまあの速度で体を一周させたなら、そこに何が置いてあったか、配色はどうだったのか、全てを言い当てられそうな単調さである。</font></p>
<p><font size="3">　その答えを述べるならば、赤と黒の配色に、テーブルが一つ、椅子が二つ、人間が三人、蝋燭がテーブルの中央にあり、その横には花が活けてあり、少し遠くに風景画が掛けられている。時計もクーラーもテレビも無い。</font></p>
<p><font size="3">　そこには無言の人間と、目の保養にならない絵と、飽き飽きする草木の臭いと、不思議な存在感のみが、お互いを侵食しないよう慎重にバランスを保っていた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　向いに座っている黒服の坊主頭が、どこからか鉛筆を取り出した。鉛筆には透明のプラスッチクでできたキャップがはめ込まれていた。六角形のそれを手の平で転がして、テーブルの上にそのまま放った。</font></p>
<p><font size="3">　鉛筆はある程度のスピードで転がり、あるタイミングで速度を失い、そして静止した。</font></p>
<p><font size="3">「油絵だ！　油絵をここに持ってこい」</font></p>
<p><font size="3">　坊主の男は隣で立っている、人形のような女にそう指示した。</font></p>
<p><font size="3">　人形のような女は口をずっと開けている。とても綺麗な容姿なのだが、その開け放たれた口から涎が垂れていて残念だ。人形のような女は壁に掛けられた油絵を手に取り、テーブルの上にゆっくりと置いた。</font></p>
<p><font size="3">「この絵が何かわかるか？」</font></p>
<p><font size="3">　男は絵から目線を話さないまま訴えかけた。きっと私に話しかけているのだろうと感じた。</font></p>
<p><font size="3">「……。どこでしょう？　どこかの港町、遠くから写された描写を丁寧に描いている」</font></p>
<p><font size="3">「ほお。これはどこだ？」</font></p>
<p><font size="3">　坊主頭が嬉しそうに声のトーンを変えた。隣で口を開けたまま立っている人形のような女は微動だにしないが、坊主頭のトーンに面食らっている様で、体を小刻みに動かしている。小便を我慢しているようにも見えるし、誰にも見つからないようこっそりと自慰をしているようにも見えた。</font></p>
<p><font size="3">「どこか？　場所は特定できない。海が側にあり、白を基調とした欧風な様相。たぶんギリシャか、その近くか、ギリシャに強く影響を持っているどこか」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　壁をそって蜘蛛が這っている。蜘蛛は特別な存在をアピールするように、黄色く輝いていた。天井を見上げれば、そこにライトスタンドが浮いている。平面に置かれることを仕様としている物を、強力な粘着剤で強引に逆さまに固定された、本来の機能を無視された使い方と感じる。そして灯りはそのものから灯されていない。</font></p>
<p><font size="3">　乾いてしまったウェットティッシュ、イヤホンが無くなったi Pod、埃まみれの空気清浄機、温くなったコーラ。</font></p>
<p><font size="3">　本来の機能を果たさない媒体はそこらに転がっている。それらと同じように意味を成さない、役目を終えた、ポンコツが宙に浮いていて、自分を見下ろしている。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「よろしい。この絵は何を訴えている？」</font></p>
<p><font size="3">　抑揚を書いたトーンに戻った。まだ無言のままの方が幸せだった。女も空気を読んで口を閉めた。床にだらしなくこぼれ落ちた自分の唾液を見つめながら、口の周りをそそくさと拭った。</font></p>
<p><font size="3">「訴えることなど何もない。ただそこにある情景を我々に誇示している。豆のように遠くに確認できる人間が、今まさに飛び降りようとしている瞬間を捕えている。現場証拠だね」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　男は女の手を強く引き奥へ消えていった。ほどなくして奥から女の喘ぎ声が聞こえてきた。どうやら男は女に欲情をぶつけているようだ。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　意味を見出せないことへ夢中になることは難しい。だから予想や真実に近い企てを空想して、こちらから働きかける行為が必要になる。意味の無い、存在しない、そんな空白を埋めるのはいつも、私たち自身であるのだから。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　奥から声が聞こえなくなった。そっと席を立ち、物音立てぬよう歩き、奥の空間を見てみた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-10719375405.html</link>  
      <pubDate>Sat, 27 Nov 2010 02:29:49 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>劣勢なので</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p><font size="3">「私は人間の格好をした幽霊なのです」</font></p>
<p><font size="3">「何を言ってるんですか？　私の目にはしっかりとあなたの格好が見えている。脚だってしっかり床についている」</font></p>
<p><font size="3">「ええ、そういうことは生きている人間が思い込んでいるだけであって、実際は違うことがたくさんあるのです」</font></p>
<p><font size="3">「例えば？」</font></p>
<p><font size="3">「色黒な幽霊が居ます。幽霊と言えば青白いんでしょうけどね」</font></p>
<p><font size="3">「う～ん、確かにそういう思い込みがある」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　女の言葉一句一句を丁寧に、市販の大学ノートに書き写していった。ボールペンを握る指先は不思議と震えていなかった。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「手首を曲げて、指先を下に垂らすポーズ。あんな格好はしません。基本的には、生きていた時と全く同じ生態です。幽霊が死んでいるのなら、生態という言い方は間違いかもしれませんが」</font></p>
<p><font size="3">「宙に浮いたり、行きたいところにワープできたりはするんですよね？」</font></p>
<p><font size="3">「幽霊によると思います。死んだ原因が何であるのか、その理由にどれだけの強い念があるのか、そういう因果が関係しているようです。私は基本的にはそういうこはできません。特に誰かを憎んでいるわけでも、前世にやり残してきたこともありませんから」</font></p>
<p><font size="3">「喉は渇きますか？　コーヒーでも……」</font></p>
<p><font size="3">「幽霊は食事をしません。疲れませんし、眠たくなりませんし、痛みを感じません。それらは人間と一緒では無いですね」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　自分が飲むためのコーヒーを煎れるため、湯を沸かしながら考えた。全く信じられない、どう見ても気の狂った人間としか思えない。暇なのか？　と。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　何故俺の前に現れたのだ？　ふわふわした疑念を暴くために、もう少し幾つかの質問をしなければならないと思った。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「そういえば未だお名前を伺ってませんね」</font></p>
<p><font size="3">「名前？　そんなことは今、重要ではありません。&quot;女&quot;で結構ですよ」</font></p>
<p><font size="3">「お、女。しかしそれはちょっと困るというか、呼びにくいですね。死前のお名前を教えて頂けると……」</font></p>
<p><font size="3">「まゆ」</font></p>
<p><font size="3">「まゆさんですか」</font></p>
<p><font size="3">「あなたのお名前はきよかわきよしさんでしょ」</font></p>
<p><font size="3">「な、何故知ってるので？」</font></p>
<p><font size="3">「私は幽霊ですもの。どんな字を書くのかしら？」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　女が置いた用紙に、清川清と書いた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　上から読んでも下から読んでも清川清。このことが深いトラウマになっている。子供の頃は、これを理由にからかわれた。テスト用紙に名前を書く時、誰かに見られて笑われているような気がした。病院でフルネームを呼ばれると恥ずかしくなった。だから自分の名前が嫌でしょうがない。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「まゆさん。私にはあなたの話を信じることができません。そしてあなたが何故、今私の前に現れたのか未だにわかりません」</font></p>
<p><font size="3">「結論を急ぐ必要はありません。あなたが信じるまでゆっくり時が経つのを待てば良いのです」</font></p>
<p><font size="3">「そう言われましても、私には婚約者がいる。仕事だってある。あなたと一緒に居るわけには……」</font></p>
<p><font size="3">「大丈夫です。あなたにとって都合の悪い人からは、私の姿は見えませんから。日常生活で邪魔したりもしません。心配不要です」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　それから数時間が経って、仕事を終えた妻の麻美が帰宅した。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「ただいま！　ちょっと遅くなっちゃった」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　緊張で震える体を抑えることができなかった。それもそのはず、隣に見知らぬ若い女が座っているのだから。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「ねえ！　いないの？」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　麻美が居間を覗いた。ソファーには、自分と見知らぬ女が隣接して座っている。飛び出そうになっている心臓が、目に見えてしまいそうなほどドクドクと鼓動していた。それ以上に女の姿が妻の目に入るのを恐れた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「あらいるじゃない。どうしたの？　顔色悪いけど」</font></p>
<p><font size="3">「あ、あああ。おかえり。ちょっと怖いTVを見てしまってね」</font></p>
<p><font size="3">「えええ、こんな時間に怖いTV何てやってる？」</font></p>
<p><font size="3">「んああ、怖いというか気持ち悪いというか。いや夢を見てたのか？」</font></p>
<p><font size="3">「ねえねえ、ちょっと大丈夫？」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　そういって麻美が近づいてきた。確かに女の姿は映っていないようだ、そう心から感じた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「熱は無いみたいね？　せっかくの休みなのに何してたの？」</font></p>
<p><font size="3">「い、いや、ずっと、ゴロゴロと」</font></p>
<p><font size="3">「ふ～ん。変な人」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　変なのはこの状況だ。結婚を間近に控えた男女の横に、青白い若い女が座っている。幽霊のような透明さは無い、全くそのまま人間そのものじゃないか。私の目には見えて、妻の目には見えていない。本当にこんなことがあるのだろうか？　自分に何度も確かめるようにそう心の中で考えた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　夕食時も晩酌時も、夜にセックスをするときだって、ずっと隣に女がいる。女がじっと私たちを見ている。女は時々話しかけてもきた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「美味しいくらい言いなさいよ」とか「疲れた奥さんに話題を求めないの」とか「あなたがもっと動かなきゃ」とか。しかし疑念は晴らされた。</font></p>
<p><font size="3">　麻美には、この女が見えていないし言葉も聞こえない。この女が言っていたとおり、自分に都合の悪い人間に対して、存在を消すことができるようだ。言い換えると、女にとって都合の良い人間だけに姿を見せることができて、本当の人間のように振舞える、という言い方のほうが正しいのかもしれない。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　こんな状況で射精ができるわけもなく、寝る寸前まで麻美は文句を言っていた。仕事が大変だったのか、今では小さい寝息を立てて、自分の肩に顔を乗せて寝ている。</font></p>
<p><font size="3">　女は立ち去るのでもなく、座るわけでもなく、ずっとベッドの横で黙って立っている。十分邪魔をしているじゃないか、と思いながら眠りに付いた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「あなた、もう８時よ！」</font></p>
<p><font size="3">「……あ、ああ」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　熟睡できなかった。何なら今日の仕事を休もうかとも思ったが、女が監視する中、この生活を送ることで、より一層の疲れをもたらしてくれそうだと思い、家を離れた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「いってらっしゃい」</font></p>
<p><font size="3">「いってきます」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　その後に、女も「いってらっしゃい」と加えた。当然それには応えなかった。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　仕事が手に付かない。何をするにもあの女のことが頭から離れない。自分に何かを頼んでいるのが聞こえて頷いているのだが、我に返ると何を頼まれたのかもわからなく、もう一度のその人に話を聞く。そんなやり取りが十数回に達したところで、上司に呼ばれた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「おい、お前今日顔色おかしいぞ。何かあったのか？」</font></p>
<p><font size="3">「いえ、ちょっと寝不足なだけのようです」</font></p>
<p><font size="3">「悪いことは言わないから、今日は早退しろ」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　他人に相談できるわけも無く、話の流れで本当に早退してしまった。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　不安な気持ちで鍵を開ける。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">「ただいま」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　返事は無い。そして家の中には誰もいない。更に何か様子が変っている。テレビが無くなっている、パソコンも無い、ゴルフセットも無い、預金通帳と印鑑が無い。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　テーブルの上に二枚の紙が置かれていた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　保証人欄に清川清と書かれた借金返済の明細コピー。もう一つは自分が昨日メモしていたノートを切り取ったものだ。私は人間の格好をした幽霊なのです、のところに赤のペンで下線が引かれている。そこには、「バカな男ね」と添えられていた。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　笑いながら逃亡している妻と女の顔が目に浮かんだ。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　別にこんな回りくどいことしなくてもできたろうに、と思えたのは数年後だった。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　</font></p>
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-10714228842.html</link>  
      <pubDate>Sun, 21 Nov 2010 21:30:33 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>干ばつ地域に水を</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p><font size="3">　テレビに映し出されている歌手が、オーディエンスへ訴えかけている。</font></p>
<p><font size="3">「私は戦争の敗因なんて知らなくていい。でも戦争が始まった理由を教えてほしい」</font></p>
<p><font size="3">　確かにその通りだと水川は思った。</font></p>
<p><font size="3">「毎日のあなたに溺れてゆくわ。ゆっくりと息もできずに」</font></p>
<p><font size="3">　私はこの横で眠っている男を愛しているのだろうか？　水川は考えた。</font></p>
<p><font size="3">　愛とか好きとかいう感情とは違う気がする。小説を買いに出掛けたのに、本屋ではなく電気屋に入っていることに気づいたように、根本からずれているような違いだ。</font></p>
<p><font size="3">　でもこの歌詞に歌われているような、息苦しい執着を持っている気もする。彼らの言葉を借りればリスペクトという関係なのだろうか、それとも単なる乾いた服従心ということなのだろうか。</font></p>
<p><font size="3">　男を起こさないように時間を掛けてベットから出た。尺取虫のように一箇所を動かしては、また別の一箇所を動かして、ゆっくりとゆっくりと静かに動いた。一動作ごとに男の顔を見て、起こしていないかどうかを確認しながら。</font></p>
<p><font size="3">　それこそ息もできないほど静かに、音を立てずに。</font></p>
<p><font size="3">　男はベッドの上の荒々しいプレイとは別に、人一倍というよりは二倍ほど繊細な神経を持っている。水川が男の部屋を弄ることは好ましくないとされている。弄るとは、物を動かしたり、口紅の付いたグラスをそのままにしたり、銘柄の異なる煙草の吸殻が灰皿に残っていたり、冷蔵庫の飲み物を勝手に飲んだり、色々な要素が盛り込まれている。</font></p>
<p><font size="3">　水川が男の部屋に来る前と後とで、間違い探しをした時に、間違いがあってはいけないわけである。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　水川はまず自分が歩いたと思われる場所に掃除用のローラーを転がした。探偵がターゲットを追うように慎重に正確に行った。粘着性のシールには、髪の毛や埃や何か判別が付かないがゴミと思われる物体が付着していった。</font></p>
<p><font size="3">　次に自分の吸った煙草の吸殻をティッシュペーパーへ包み、鞄の中へそっと放った。</font></p>
<p><font size="3">　後は何をしただろうか？　水川は昨夜の行動を思い返した。</font></p>
<p><font size="3">　まず男の部屋に入り、酒を飲みながら話をした。電車の架橋下連絡路でナンパされたことを話した。男は少し苛立った様子でその話を聞いていた。ほどなくして体が疼きだした。後はすぐにベッドへ入ったような気がする。</font></p>
<p><font size="3">　水川は着ていた洋服の毛を毟（ﾑｼ）って、わざと絨毯に落としてから部屋を後にした。次来るときのお仕置きネタを残していった。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　一体何時間寝ていたのだろうかと水川はガッカリした。外に出るとあたりは既に暗がり掛けていたからだ。</font></p>
<p><font size="3">「今日はお店休みたいんだけどいいかな？」</font></p>
<p><font size="3">「亜実さん、それはいけません。亜実さんへの予約が入っていますから」</font></p>
<p><font size="3">「予約？　誰なの」</font></p>
<p><font size="3">「藤原様ですよ。昨日いらしてた」</font></p>
<p><font size="3">「……。そうわかったは。予約は何時からなの？」</font></p>
<p><font size="3">「えっと、22時からですね」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　あの女、一体どういうつもりだろう？　と水川は思う。二日連続でSMクラブに来る女ってのはそうはいない。よっぽどの好き者か、金の使い道がわからない富裕なのか、あるいは……そう考えていると、昨日ナンパをしてきた男が、昨日と同じ場所で眠りこけている。</font></p>
<p><font size="3">「……ねぇあんた、風邪引くわよ」。そのまま通り過ぎようとも思ったが、水川は男を起こした。</font></p>
<p><font size="3">「ん、んあ、あっ！　昨日の」</font></p>
<p><font size="3">「亜実よ。あんた本当に部屋が無いわけ？」</font></p>
<p><font size="3">「ええ、喧嘩して出されちゃったんです」</font></p>
<p><font size="3">「……。いいわ、着いてきなさいよ」</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　歓楽街の明かりが灯り始め、黒服の客引が増えだしていた。この時間帯は風俗を物色する男より、居酒屋探しをしている男の方が多い。私たちのような男女を捕まえて声を掛けてくるのは、居酒屋かカラオケのバイトだけだ。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　水川の頭は、藤原というM女を今日はどう責めてやろうかという欲求、この横に歩いている若造をどうしようかという不満、さっきまで一緒に寝ていた仙名というドS男との今後、この３つが優先順位を争って錯綜していた。</font></p>
<br />
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-10660209895.html</link>  
      <pubDate>Mon, 27 Sep 2010 00:50:14 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>殺風景に寒気を</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p><font size="3">　油臭い電車を降りると人は疎らだった。泥酔してベンチに横になるサラリーマン、新聞紙をマットにして熟睡する浮浪者、黄土色の円グラフのような形をした下呂、目を擦る駅員。映る人間は皆、各々が喜ばしいと感じる状態にはなっていなかった。</font></p>
<p><font size="3">　正午を待たず花を萎ませた朝顔のように、溶けた氷がアルコールの臭いだけ残すグラスのように、それらは己らの普通の状態を誇示できてはいなかった。</font></p>
<p><font size="3"><br />
</font></p>
<p><font size="3">　ダンボールと香水の臭いが地下道の空気を染めていた。外は晴れているというのに、ここは湿気で満載だ。ここを通ればあの人の部屋に辿り着く。あの大好きな光景に遭遇できる。</font></p>
<p><font size="3">「ねぇ遊びに行こうよ。いい店知ってるんだ」</font></p>
<p><font size="3">　急に水川へ声を掛けてくる青年がいる。相手は一人だった。こっちも一人だった。</font></p>
<p>「悪いけど今日は疲れてるの。体中汗まみれで下手したら蝋燭の臭いまでするかもしれない」</p>
<p>「はは、それどういうことなの？　面白いお姉さんだね」</p>
<p>　金髪でシルバーの装飾が、耳にも指にも唇にも目立った。自分が人間である証が、装飾に牛耳られているように、わざと臭い存在感を醸し出していた。</p>
<p>「私は何一つ面白くないSM嬢だよ。さっきまで裸当然の格好でドM女をひーひー言わせてたのさ。あんたもそこを避けないと、私みたいにどうしようもない人間に落ちぶれちまうよ」</p>
<p>　男は水川を見返した。チャラチャラした容姿に反して、澄んだ透き通った目を露呈した。</p>
<p>「ごめん。実は俺金がないんだ。これはナンパじゃなくて救いの声なんだ」</p>
<p>「……」</p>
<p>　どこからか蛙の声が聞こえた。こんな都会にも蛙はいるものなんだ、と水川は思った。目の前にいる金髪の男、年齢は恐らく自分より下だろうと思った。ヒールの高さを差し引いても、たぶん私より背が低い、とも思った。</p>
<p>「で？　どうしたいの。私の部屋に居候でもしたいわけ？」</p>
<p>「うん。可能なら」</p>
<p>「……。私はこれから彼の部屋に行こうとしているんだけど、どうしたい？」</p>
<p>「彼氏がいるんだ……そうだよな、綺麗だもんな」</p>
<p>　カウンターのボディーを露骨に受けたボクサーのように、男は生気を失っていった。体が地面に横たえるのを、力を入れて必死に堪えているように、水川には思えた。</p>
<p>「お家に帰りな」</p>
<p>「う、うん。そうだな」</p>
<p>　男は後ろを振り返り、とぼとぼと歩き始めた。水川はそれを追いかけるように、後をついて歩いた。その距離が縮まらぬよう、遠ざからぬように。</p>
<br />
<p>　地下道を抜けると、朝日が少しだけ差し込んで、街は薄暗さを手にしていた。目的の場所が見えてきた。</p>
<p>　寂しい様相の暗い灰色のアパート。あそこで私は仕置きを受けるのだろう。</p>
<p>これから朝を越えて昼を越えて、夜に差し掛かっても終わらずに、次の日を迎えるまで。</p>
<p>　水川はそんな想像をするだけで股間を濡らすことできた。豪雨でも霧雨でもない、一日中鈍雨だ。</p>
<br />
<p>「おかえり、遅かったじゃないか」</p>
<p>「ごめん、変な男にナンパされたの」</p>
<p>「ナンパ？　お前をか」</p>
<p>　男は心底気に入らない様子だ。</p>
<p>「ねぇ、今日は徹底的に扱いてくれないかしら？」</p>
<p>「なんだどうしたなんなんだ。お前ちょっとイライラするじゃねえか」</p>
<p>「何かね、体が、すごい疼いてるの」</p>
<br />
<p>　朝日を浴びた灰色の壁が眩しそうに目を瞑っている。遠くから近寄ってきた鴉が獲物を必死に探しながら泣き喘ぐ。部屋の中で快感と疲れと癒しと痛みを伴いながら、動かせない体に力を入れて、跡を深く広く多くしていく自分を遠めに見ることができるようになった。</p>
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-10653497313.html</link>  
      <pubDate>Mon, 20 Sep 2010 00:29:15 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>S002　常夢</title>  
      <description><![CDATA[<p>
 <p>　そんな子供の頃はよく夢を見た。それは決まって、生死を別つような単純だが残酷な内容だった。</p>
<br />
<p>　ライオンなのか熊なのかあるいは怪獣か恐竜か、当時知りうる最も危険と思っている何かに追いかけられている。何に追いかけられているのかは、目を覚ましたときにはもう思い出せないでいる。</p>
<p>　その何かは圧倒的にあいつより足が速いのだが、そう簡単には捕まらないカラクリがこめられている。追いつかれるギリギリのタイミングで障害物が邪魔をしてくれたり、追いつかれるギリギリのタイミングで邪魔が入ったり、そしてあいつ自体もそこそこ足が速いのだ。</p>
<p>　しかし体力のせいか、カラクリが足りなかったせいかで、いよいよ追いつかれてしまい捕まる。鋭く尖った爪なのか大きく開かれた口なのかは同様に不明確なのだが、そこには最超の恐怖と痛み（のような感覚）が伴って絶望する。すると目が覚める。</p>
<p>　この夢が言いたいのは何かに捕まったときの絶望ではなく、捕まるまでの恐怖や疲れや息遣いを思い知ることにあると、あいつは考えている。もちろん夢に意思があればの話だが。</p>
<br />
<p>　もう少し時が経った頃、高層から落下する夢をよくみた。勝手に体が動いてしまい少しずつ歩を端に進めていく。それは斜めになっているホームで、母親に忘れられたベビーカーの中の赤ちゃんのように、自分ではどうすることもできない支配された力なのだ。</p>
<p>　いよいよ端先に到着して地面を眺める。冷たくて硬いコンクリート地面が、薄っすら靄がかかって見える。待った無しの状態、覚悟をするも意を決するも許されない時間。</p>
<p>　体内の臓器が上空へ上空へ、体自身は下方へ下方へ力が働く。落ちる間に、高層ビルの窓を伝って人と目が合う。それは男性なのか女性なのかもわからない。ただ目が合って何かを囁かれる。</p>
<p>　そしていよいよ地面に叩きつけられる瞬間、全身が軽くなり、光景が真っ白になり目が覚める。</p>
<p>　この夢が言いたいのは、全ての葛藤から逃げ出すために命を絶つ時、もう後には戻れない状態で何かやり残していることを思い出しても、後の祭りだということだろう。</p>
<br />
<p>　人間が体験していないことは、夢にも勿論可視化されない。有名な例がSEXである。異性の性器をまだ見たことがない時点では、アダルトビデオのモザイク画面のように局部は不明確にされている。 逆に性行為を行って異性の性器を想像できる頃には、夢の中でもまたその局部がしっかりとイメージされている。</p>
<p>　当たり前のことかもしれないが、夢は外部から与えられることではなく、自分の脳みそか何かが作り上げているという事実になる。</p>
<br />
<p>　人が当たり前だと片付けてしまうことを、何故なのか探る癖があいつにできあがっていった。理由や動機や成り立ちやルールってのが、妙にあいつの周りからまとわり付いて離れなくなった。</p>
 
</p>]]></description>  
      <link>http://ameblo.jp/smking/entry-10653086553.html</link>  
      <pubDate>Sun, 19 Sep 2010 18:08:07 +0900</pubDate> 
    </item> 
  </channel> 
</rss>

