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    <title>千代新地（放蕩息子の迷走：ゴミ置き場）</title>  
    <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/</link>  
    <description>筆者おかざきよしともが日々排泄するゴミの処理場。 ここに書いてあることはすべてフィクションであり、実在の人物・団体などとはあまり関係ありません。</description>  
    <language>ja</language>  
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      <title>WESTERN DEVELOPMENT　初期稿　第一</title>  
      <description> <![CDATA[ …………ブウウ———————ンンン———————ンンンン…………。<br />
<br />
　丸い電球ひとつだけの暗い部屋に一組の男女がいる。若い男女で、背もたれの大きな木の椅子に座って向かい合っている。冷たい部屋で、男も女も厚めのコートを着たまま見つめ合っている。窓の外は夜の景色で、近くを流れる川の向こう遠くに都心部のビルの光の群れが見える。静かな夜・静かな部屋、時計の針の音が聞こえて来る程、その静けさに魂ごと吸い込まれていきそうな程。<br />
　私が言えることは以上で、あとはもうさよならだ。皆様に会うことはもう無いだろう。最後にひとつ付け加えるのは、私はピストルを構えて引き金を引くことである。<br />
<br />
「お兄様、地の文が自殺しましたわ。」<br />
「そのようだね。ところでどうしよう。カメラはあちらだ。一応礼でもしておいた方がいいのかな。」<br />
「お兄様、わたしたちはそういう儀礼的なことをする為にここにこうしている訳ではなかったはず。夜が開けるまでの時間も無限ではありませんので、すぐにでも始めなければなりません。」<br />
「ああ、そうだったね。……しかし、何から始めようか。どうもこのような部屋では重っ苦しく感じられてしまって仕方が無いよ。若干息苦しい気さえする。しかも部屋の寒さのせいもあって、先程から身体の震えが止まらないんだ。ああ、お前だって震えているじゃあないか。いやはや、ここは寒過ぎるだろう。」<br />
「そう言いましても、わたしたちは今夜、他に行くところがありますかしら？わたしも自分の身体の様子は自分で分かっています。わたしたちに出来ることは、このような状態も気にしないで済むようなことを、夜が開けるまでし続けることだけです。」<br />
「だろうね。……そうだ、ぼくたちは始めなければならないな。何がいいだろうな。ここにはぼくとお前しかいない。部屋があって、窓があって、カーテンがあって、僕とお前が座っている椅子があって、この電灯があって、その他には何も無い。このままだと幾らお前がぼくの傍にいたとしても、ジリジリと凍えて死ぬのとどことなく心細くて死ぬのを同時に得なければならなくなる。きっと夜明けまで持たないだろう。何かいい考えはあるか？」<br />
「お兄様、こういうのはどうかしら。トランプのゲームは幾つもありますけれど、ダウトというのはご存知？数字を正しい順番に重ねて、もしくはでたらめな数字をこっそりと重ねて、もし相手がでたらめなカードを出していたら「ダウト」と唱えて、相手の出した伏せたカードを開き、それがちゃんと順番通りならダウトを唱えた者が、でたらめならそのでたらめなカードを出した者がペナルティを受ける、大体そんなゲームですわ。」<br />
「モヨコ、幾らぼくだってそれくらいは知っているさ。しかし、ダウトをするならそれもいいが、ここにはトランプなどありはしないだろう。勿論ぼくも持ち合わせていないよ。まさかお前は持っているのか？」<br />
「いいえ、何も持っていませんわ。だって今夜はそういう決まりでしょう？わたしだってそれくらいのことはちゃんと分かっているつもりです。……要するに、カードの代わりがあったら良い訳ですから、お兄様、こういうのはどうでしょうか。つまり、カードの代わりに、わたしとお兄様の妄想を重ねていくというのは。」<br />
「妄想……か。つまり、ぼくとお前で順番に妄想のエピソードを重ねていき、それに関してダウトを掛ける訳だな。成る程な、それならばカードは要らないだろうし、今ここにおいて自分の身くらいしか持たないぼくたちでも可能だろうな。」<br />
「しかし、これを始めるにしても、何も無いところから始めるのは気が進みませんわ。適当でとりとめのない妄想ほどつまらないものはありません。わたしたちはこれからダウトをちらつかせて妄想を重ねていくのですから、その重ね方には整合性が、妄想なりの構築が必要です。そのためにも、まず根本的なテーマといいますか、わたしたちの妄想の始まり、すなわちトランプのダウトで言いますところのエースが何か欲しいところですわ。」<br />
「そうか。それだったらぼくが出そう。そうだな、ぼくの記憶から考えて……こんなのはどうだろう。ぼくたちのこの街のとある一角に存在する、いや、かつて存在していたある小さなレコード会社についての話だ。」<br />
「成る程。テーマは決まりましたが、それがどこから、そしてどちらの方向に向かっていくのでしょうか。」<br />
「そのレコード会社は小さいながらも素敵な会社で、その周りにいた人達の輝かしい時期というのも存在した。しかしその栄光が次第に陰り、衰え、そして遂には無くなってしまう。……その終局的な破綻へ向かう際の最重要な転換点は、ある男の死なんだ。ぼくはそこから話を進めていきたいと思う。これでいいかい？」<br />
「素敵ですわ。……しかし、こんなに静かな部屋で、そんな音楽的なことについて思いを巡らせていくのも不思議な感じがします。」<br />
「それについては大丈夫だろう。ぼくたちのこのゲームがその集中の度合いを高めていくならば、次第にそこには音楽も、他のここに一切存在していないものや人なども、ぼくたちの中に育つだろう。……それだけに、ダウトのタイミングが幾らか難しくはなるだろうが。」<br />
「それは仕方がありません。何しろ、今からわたしたちがするのは、今わたしたちがこうしていることや、そしてその集中に足るだけの価値を持ったものでなければならないのですから。」<br />
「ああ、そうなんだろうな。……テーマを出したのがぼくだから、先にぼくから始めさせてもらおう。準備ができたら始めようと思うんだが。」<br />
「準備も何も、ここには何もありませんわ、わたしとお兄様以外。そしてわたしは準備すべきものを何一つ持っていませんので。どうぞ……。」<br />
「そうか……。なら、早速だけど、始めよう……。」<br />
<br />
]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10381049594.html</link>  
      <pubDate>Thu, 05 Nov 2009 02:41:20 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>脳髄垂れ流しビーム　３：傲慢編</title>  
      <description> <![CDATA[ 　未来のことを考えたら気持ちが落ちる、先行きの不透明具合、混乱し複雑化しながらも表層はまるで整然を装うような社会、ぼんやりとした不安。ただこれは、単に僕個人の未来についてだけではない。それは幾つかの職業や幾つかの危機的状況な若者、幾つかの自治体、及び国、そしてほぼ思いつく限り全ての友人についても、非常におせっかいながらそれらの未来を勝手に、しかもかなり悲観的に想像しては、うわあ、そんな風になるところは見たくねえなあ、でも個人や個集団が頑張るだけじゃあどうしようもない状況って多いからなあ、大丈夫だろうか、上手く職を得た知人たちは社会の大きな変革や黄昏れに巻き込まれて失職して地を這いつくばったりしないだろうか、今は繁栄しているああいう職業もこれからの世界情勢においてどう変化していくだろう、ああいうタイプの自営業ってこれからどうなるんだろう、この街って財政とかヤバいけれど解決する日は来るんだろうか、これ以上発展することが出来るのか、また発展してもそれが周辺地域に及ぼす害悪とは、ああ、この国は結局世界においてどのような地位に就くべきで、しかしそれも多くの利害関係が絡むから不可能で、これからゆっくりと国家の黄昏れをなどなどなどなど、そのように多種多様な適当な推測によって落ち込んでいるのである。<br />
　「人のこと心配していないで自分のことを心配しろよカス」と言われれば確かにそれもそうなのだが、正直なことを言うと、僕はどうも数年後よりも先のことを考える能力をあまり持ち合わせていないので、幾らかの漠然とした不安はあっても、または幾つもの僕の没落を投影した未来予想図を用意しても、確かにその瞬間は不安になるけれど、やがてその遠い先の暗闇は遠ざかってしまい、せいぜい数日後・数ヶ月後くらいまでの大量の不安に取って代わられてしまう。それに僕は短期的には非情なペシミストだが、長期的には色々と非常に楽観的過ぎるビジョンも用意していて、そういうのを漠然とベッドの中で考えていると少しばかり気も収まるのである。まあ捕らぬ狸の皮算用過ぎる話ではあるが。<br />
　あと、将来のことについて他に思うのはみっともなさについてである。子供の頃僕が育った街は、今見たらなかなかに寂れた部分が多くて痛々しかった。そして今住んでいる大きな街に来て、確かに華やかなところも幾らか見たが、それ以上にろくでもないところや切なくなるようなところ、まるで救いの無いような風景というのを沢山吸引した。ぼくの血の中にはそのみっともなくて心がじわりと滲んでしまいそうな風景が原始以下のレベルで溶け込んでいる、と信じている。どうも世間というものは、上を見ればそれも十分きりが無いが、それにも増して下を見ると、どこまでも果てしなく闇が続き、果たして底なんてものはあるんだろうかと思う。そのような世界においてはみっともなさというのもまた無限に続いていくもので、そしてそのみっともなさも、確かに暗部かもしれないが間違いなく社会の一部なのだ。ああ、僕は沢山のホームレスを見て来た。都心の駅の人波の中でぶっ倒れている、もしかしたら死んでいたかもしれないホームレスを見たとき、僕の中で何かが弾け飛んだ。ボロボロの髪、汚れ切った肌には沢山の皺、冬なのに擦り減ったサンダルを履き、変に黄色いベストなどを着込んでいた。倒れている彼の傍を通る大量の人達は見て見ぬ振り、かくいう僕だって面倒ごとは避けたいのだ、こういうことに回す分の正義感というのはおよそ持ち合わせていないのだ。僕は自己を批判すべきか？しかしそしたらあの無数の群衆をも批判しなければならない。それは非常に面倒で神経を使わなければならない作業だ。そんなことをするくらいならさっさと考えを切った方がいい。<br />
　そう、そして僕はそのように彼を無視した。ならばきっと将来僕がああいう人達の様になって倒れても、きっとみんな見て見ぬ振りをして通り過ぎていくだろう。それについて何の怒りも沸かない、むしろその無情さを都会のファッションと考えることさえも出来そうなくらいに、まだ若過ぎる僕は考えてしまっている。それにああいう風になるのが恥ずかしいならそれこそ現実逃避の死を用いればいいし、そうしなくても、街のホームレスの人々を眺めていると、確かに悲惨だがそれでもどうにか人目に耐えて、というかそういう死がらみから抜け出して豪快に振る舞っている人も多い。もし僕がホームレスになっても、いやむしろホームレスになったら失うものが無くなる訳だから恥も外聞も無くなって、むしろ今よりも遥かに大胆に活動することが出来るかもしれないと考えると、想像し得る限りのみすぼらしい未来も意外と受け入れることが出来るかもしれないとか思ってしまう。もちろんそれらを望む訳ではないし、一応僕にも目標としている超楽観的な未来があるから、それに向けて頑張りたいとは思っているのだが。<br />
　ただ、将来のみすぼらしい僕の想像は気にならないが、それが他人のそれになると話は全く変わってくる。特に、知り合いの人々が路頭に迷っているところを想像すると、不安だけでなくその他多様なタール的感情がふつふつと沸き上がり、鳥肌が立ちそうになる。僕は友人たちが年老いてみすぼらしくなった顔や格好を想像する。僕はその想像した姿の悲惨さに耐えることが出来ない。そしてそのような酷い想像をしてその人を貶めた自分の罪悪を思い、そのくせどうやってその人が落ちぶれていくかその過程まで考え出し、無駄に凝った悲劇やだらだらとした堕落を付け加えてしまう。それがその人によく似合っていればいるほど僕が背負う罪の意識もまた肥え太る。僕はその罪を生み出した僕を許せないだろうし、自分に対して自身の怒りを結集してぶつけることを躊躇しないだろう、少なくともそうありたいものである。そう、やはり知り合いにはそれなりに素敵な未来を送って欲しいのである。まあ大成功したりしたら妬むかもしれないが。そして立派な大人になった友人たちとすっかりみすぼらしくなった僕という未来がやって来たら、その友人たちは僕のことを奇麗さっぱり忘れてくれないだろうかと願う。そうすれば僕も妙に感情のこもった人目などを気にすることも無く、惨めに生き続けていくことが出来る。<br />
　没落というある種の重力による運動というのは物語的には大きな魅力があって、しかしそれが現実において同じ様に機能するとは限らない。逆に言えばどんなに惨めな没落でさえ、物語の中でならば輝く可能性があるということだ。本当は現実だって視点の置き方や考え方によってはみっともなさが美しく見える瞬間というのはあるだろうが、しかし現実の人間というのは実際に生きている、自分の意志と欲望と肉体をもって生きていて、死なない限りは生活をしている。物語に対して申し訳無いけれど、やはり重みというものが全く異なる。物語と現実の間で、美しさと重みというのは交換することの出来ないカードなのだ。<br />
　ああ、それと僕の一番楽観的なところを述べると、とことんまで惨めな人生を送れば、多くの人が「うわあ……社会の底辺かあ」と思うような状況に置かれれば、その人はまさにこの世の地獄の一端を見た訳で、僕が思うに、彼はそれをなんとかして語るべきだと思うのだ。どういう人間の欲求なのかはよく知らないが、社会にはそういう本当に惨めな世界をより深く知りたいと思う人間がそれこそ多く存在する。彼はそういう人達を満足させるような告発を作成出来るかもしれないのである。どうせ堕ちるならとことんまで堕ちろ、前人未到の深さまで堕ちたらそれはその人だけの風景。なんとか原稿用紙とペンを用意しろ。プロットや下書きを捨ててある新聞紙や雑誌などの上に書きながら、自分が見て来た地獄を伝えるんだ、どうしても伝えるんだと奮闘し、そしてそれが上手いこと行けば出版されてヒットして金が入って来てホームレス脱出やったあしかも地獄を見たということでトークやコラムの持ちネタも出来て、まさかこんな大逆転劇があったなんて、そして若者にさもアウトロー気味でしかもずしりと重みのありそうな言葉を投げかけてみるのである。<br />
　まあ、実際にホームレスにまで堕ちたならば、そういう類の活力というのは全く失われてしまって、それこそただ生きている状態になるのだろうから、結局駄目なのかもしれないが。いやでももし仮に何らかの転機でもってしなびたホームレスの心に訳の分からない明かりが点いたら、などと考えるのは夢想のし過ぎだろうか。でも想像の中なら、理論上は可能なはずだ。<br />
　海沿いのホームレス集積地を自転車に乗って散歩しながら、彼等の惨めさを観察しながら、そんなことばかりを考えてしまう僕は多少傲慢かもしれない。しかしなんて言ったってまだ若いのだ。ろくに社会を知らないクズガキの戯言でしかないかもしれないが、とりあえず僕はこの自分の考えが全くクズだとはまだ思えないでいる。若さか、愚かさか、傲慢か、無知か、そのようなものは僕を眺める僕と僕を眺める他人が決めることである。あっ、無視は一番辛いです。そうそう、見るに耐えない愚か者は常に視界から消すに限る。だのに見てしまうあなた、もしかしたら凄くいい人かも知れません。<br />
<br />
]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10357470165.html</link>  
      <pubDate>Mon, 05 Oct 2009 04:26:27 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>脳髄垂れ流しビーム　２：嫉妬編</title>  
      <description> <![CDATA[ 　主に買い物と散歩、主にこの二点において僕は社会を実際にこの目で見る。それなりに立派に都会なところに住んでいるので、それだけでも様々な人々を見かけることが出来る。僕のよく行くスーパーがオフィス街にあることで、特に様々なサラリーマンを見ることが出来ている。どうも僕は、彼等の健全かつ大胆な活動（のように僕からは見える）を見ていると、自分の存在が酷く卑小であるように思えてしまい、しかし一方で彼等を徹底的に見下しているようでもあるのだ。何故だろう、彼等のその日常的な活動こそが世間を支えているのは明らかでありそのことを認めなければならない、そして本来ならばオレ自身もそうでなければならないと考えていながら、そのすぐそばで彼等の均一性やその仕事の内容（何も知らないのだけれど）を酷く嫌悪もしている。<br />

　このような状態が社会一般的に健康と言えるはずもなく、このように彼等を嫌悪しながらも引きこもる様はまさに社会不適合と言っても良いのではなかろうか。少なくともそう言われても仕方がないとは思っているし、ある程度自分自身をそう見ているつもりでもある。面倒なのは、今自分が抱いている価値観の多くをそっくり捨てて普通に働き普通の生活を送るという事態を非常に恐れ、そんな方向に向かうのならば今すぐ死んだ方がマシだと思う気持ちが僕の中で大きな位置を占めていることである。「そんな訳無いだろう。もっとまともに考えろよ」という気持ちもあるのだが、「まとも？何がまともだと言うんだ？連中のように社会の歯車となって隷属することがまともだって言うのか？お前の言いたいことを説得力を持って多くの人に伝えられずに、その辺の一般大衆と同じような生活をして人生を終えるのがまともか？嘔吐、嘔吐、嘔吐。」などと叫びだすものがあり、それに対して「社会の歯車にすらなれない奴が何を言う！責任について考える権利も持てないような奴が何を言う！」とああもうこの後は果てしなく泥仕合。<br />

　何よりも恐ろしいのが、こういった独善的のように思える軽蔑やら何やらが、実は非常に月並な、大学生のうちのそれほど少なくは無い考え方一般をそれほど大きく逸脱していないのではないかということである。こういうことを幾ら書き連ねても、それが実は全く月並なことであるなら、それはまるで存在価値を失ってしまう訳だし、僕のこのがむしゃら気味な努力もこの広い社会においては全く特別でないならば、なんとも虚しい存在となってしまうのである。そういった事態を避けようと難しく考え、更に生活を先鋭化させようとすると今度は生活が破綻してしまう。なんだかんだ言って僕は生活を破綻させるのが恐ろしくて、どうしても消極的になってしまう。先日お月見の際に友人が精神診断なるものの話をしていて、その中で「消極的社会不適合」という項目があると述べていた。ああ！なんと！もしかしたら僕の事態もこの一言で全て回収されてしまうのではないか、いや間違いなくあっけなく回収されてしまうだろう、ということ。大体、「消極的」という漢字三文字が全てを表しているのではないか！ああ、しかしならばどうすれば「消極的」から「積極的」になれるのだろうか。その手段が今ひとつ掴めずに、今までずっと苦しんで来た。割と無様な暮らしを送って来た。<br />

　「積極的社会不適合」とはどのようなものだろう。少なくとも単なる引きこもりでないことは確かだ。思いつく限りを挙げ連ねていくと、まず思いつくのがやくざであった。次に犯罪者、女買い、ギャンブラーなどが思いつく。おお、おお、確かにどれもこれも駄目だが積極的な気がする。確かにそのようなものについての憧れがゼロということは無い、けれどもさしてそういうものになりたいとも思えない。だってこれらのものはあまり格好良さそうにも賢そうにも思えない。どうにか女買いが耽美的な匂いを持っているだけで、しかもそれも財が必要であるからもし仮に僕が実行してもどうにもこうにも。借金をすればいいか？いやいやそれで滅亡してしまったら身動きが取れなくなる。あれれれ、「積極的社会不適合」ってあんまり良く無いじゃん、どうしたことか？<br />

　結局のところ、僕みたいな奴が憧れるような社会不適合というのはもっと瞬間の美しさ的なものなのかもしれないというところに着陸する。それは「消極的」「積極的」で簡単に測ることの出来ない位置に存在している。引きこもりの少年が殺人を犯すケースなどは、その行為は「積極的」と言えそうだがそれに至るまでの過程は「消極的」な事柄の積み重ねである。まあ、消極的社会不適合が生活の破綻まで辿り着いた時に「積極的」な行動に走るとも言えるが。<br />

　で、この「積極的」行為や瞬間に関して、やはりひときわ妖しい魅力を放つものが自殺であろう。何故自殺はこうも甘美なのか。自殺はファッショナブルなのだ。太宰治をはじめとする多くの自害した文豪の評価は未だに一般的に高いと言えるだろうしその生き様はどこかロマンチックですらある。『若きウェルテルの悩み』をはじめ多くの文学作品では繊細な青年が煩悶の積み重ねの後に絶望でもって自分の命を害し、それに至る過程の多くは詩的な美しさや悲劇によるうすら甘い香りを放っている。ミュージシャンならカート・コバーンをはじめ……という様に、自殺による魅力を纏ったものというのは枚挙に暇が無い。<br />

　しかし、ここに大きな落とし穴が存在する。何故、それらの自殺が素敵に思えるのか。繊細だから？美しいから？それよりも大切なことは「多くの人に知られているから」ではないか？例えば今すぐここで僕が死んだってそんなに有名な訳でもないしその自殺が美しいと多くの人に訴えかけるだけの業績がまるで無い。そういう死こそまさに「社会に埋没した大衆的に無価値に近い、薄められてしまう死」である。もちろん普通の死というのは取り上げてどうこう言うようなものではなく、むしろ慎みを持って扱うべきだし、別に埋没というのも何の問題も無いだろう。ただ、ここでの自殺というのははっきり言ってしまって「人の目を引くこと」を目的にしている訳である。「美しさ」を求める気持ちの幾らかに、そういう評価を他人から戴きたいという願望が混じるのはよくあることだと思っている。そういう意味で言えば、多くの評価を得られそうにも無い世間に埋没した一青年が死んだところで、誰が評価してくれようか。隣人の悲しみしか残らない。そもそも有名人であってもその自殺を崇拝するのはどうだろうってこともあるというのに、それが卑小な人間ならなおさらである。<br />

　そういうことを考慮すると、詩的理由をもとに自殺することは非常に困難なのである。目的が達成出来る確率は相当低いのである。大体、目標を達成したところでその評価を自殺した当人は受け取ることが出来ないのだ。ああなんと馬鹿らしい！<br />

　しかし意外と、こういう詩的理由から自殺を考えることは大切かもしれない。そういった気持ちの混じった自殺というのは、以上に挙げた適当な論理からも証明されるような不可能性がある故に、どうも実行に踏み切れずに、そのまま流れてしまうからだ。これがもし純粋に現実逃避の最果てとして実行されるのならば、当人はただ逃げ出したい、全てを放り投げたいだけなので素直に死んでしまうだろう、しかしここに名誉欲という非常に馬鹿らしいウイルスが混入することによって、自殺する大義名分が不透明になり、遂には自殺は避けられるのである。そう、ある種のナルシズムは自殺を抑制するとも言えるだろう。<br />

　僕はこれをある日、近所の橋の上でぼんやりと川の水面を眺めている時に思いついた。そうだ、まだオレには死ぬほどの価値が無い、どうせ死ぬならもっと美しい時期があるはずだ、今は最良のチャンスじゃない、むしろ比較的死ぬには向いていない日だ、というかそういう意味ではまだオレは全然努力が足りてないではないか、ああ、どうせいつか死ぬならそういう付加価値を付けてから死ななければ、よし、ここはひとつ素敵に死ぬ日の為に色々と頑張らなくては、そういうことを考えよう。こうして僕はあっさりと川を後にした。もっとも、多分その橋から飛び降りてもまず死ねないのだが。しかし狂言自殺をするにしてもちょっと死ぬ可能性があることを考えると踏み切れない。ああ、やはり僕は「消極的社会不適合者」なのかもしれんね。ははは。それはそれとして頑張るべきことを頑張るべくそれを模索し、そして言いたいことや別にそんなに言いたくは無いけれどそれなりに言う価値はありそうなことをひたすら書き連ねることで一時的な精神の安定を図る、そのために色々と部屋の中や三歩中に考え、そして必死にワードに向かっていくのであった。ああそうだ、この分の最後にもなんか意味ありげな即席の格言でもくっ付けておこう。<br />

「自殺願望者よ、美意識を持て！自分の死による波紋を見よ！……本当に、今でいいの？」<br />

　ああそれにしてもやっぱり自殺に憧れる一青年としては、二度も死に損なってそれによる「みっともない美しさやらやるせなさやらそういうもの」を生きて手にすることが出来た太宰治には、正直嫉妬してしまう。ああ、あなたの様に生きれたら！と勢いで言ったはいいが、パクリは良く無い。パクリは評価されないからな。太宰を目指すのならば、太宰とは違う方向で目指さなければならない。まあ僕別に女たらしじゃあないんで色々と無理ありますけど。大体太宰を目指すなんておこがましい！とかこんなこと言ったらどうなってしまうのかしら。すんすんすん。<br />

<br />
]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10357045050.html</link>  
      <pubDate>Sun, 04 Oct 2009 17:26:55 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>脳髄垂れ流しビーム　１：暴食編</title>  
      <description> <![CDATA[ 　気がつけばラーメンに五百円以上を出すのにさえ痛みを覚えるようになって久しく、僕は頼りの無い日々をどうすれば生活に掛かるお金を擦り減らすことが出来るか、どうすれば生活を簡略化していくことが出来るかについてばかり考えるようになった。何故だか分からないが様々なことが面倒に思えるようになり、最近は遂に自分の部屋でゴキブリを見ても諦めがつくようになってしまった。僕はベッドの中でひとり、そうなってしまった自分を密かに悲しく思うものである。<br />
　しかし意外と吝嗇というのも楽しみがいのあるもので、買い物に行くたびにその前後数日の食費平均のことを考え、それが一日平均千円をどれほど下回っているかによって、どこかまやかしじみたささやかな満足を貪るのである。ただし、自炊をするという考えは僕の中に存在しない為、それはカップ麺や冷凍食品、そして飲み物やお菓子などで構成される。<br />
　大体、家のフライパンがいつの間にか訳の分からない具合に痛み、一番最近に、このままでは吝嗇にも限界がある、これでは不味いと思い、珍しく野菜炒めを作ろうと奮起し、豚肉をそのフライパンで熱してみようとすると、豚肉はフライパンに惨めったらしくくっつき、それがしかもなかなか剥がれず、焦げてしまうのを防ぐべく強引に剥がそうとすると肉自体が分解して細切れが更に細切れになってしまうので、結局出来る野菜炒めは肉がボロボロで小さくてなんとも満足のいかないものなのである。そういえば塩胡椒も賞味期限を見るとおよそ四年前に数値が設定されていて、そのせいかまだそれなりに存在するはずの中身が変に固まってしまって、一生懸命に振っても全然出ないのである。仕方が無いからその辺にあった麺つゆで野菜炒めを味付けするのだが、この麺つゆがまた妙に酸っぱくて、何だおい、これも賞味期限が切れているのかと腹を立ててラベルを見るが、しかしそこにはおよそ一年後の日付が記してあり、あれれじゃあ何でこの麺つゆは酸っぱいのだろうと考え、しばし困惑する。麺つゆが酸っぱいなど、あってはならないはずの事態である。お陰で野菜炒めも酸っぱい出来となってしまい、微妙に気持ちの悪いその料理でもってご飯を食し腹を満たす訳であったが、それで十分な満足が得られる訳も無く、大変居心地の悪い気分と理解に苦しむ状態の麺つゆに対する行き場の無い怒りを抱えたまま、しかしそんな状況では何をするにも身体にも心にも力が入らないので、布団に潜り込み、色々と問題の追求や本日の反省などをぼんやりする頭の中で展開しながら、とりあえず眠るのである。眠りによって自意識が発散するより前に、とりあえずあの麺つゆがおかしくないのであれば、正常であるのならば、もしかしたらオレの調理方法が駄目だったのだろうか、それとも異常はオレの舌の方であろうか、ああそういえば今日は少し身体の調子が思わしくないところがあったような気がしないでもないかしらと、その辺りまでは考えていたと思う。もっと多くを考えていた気もするのだが、そういったものは全て眠りのへらによって悉く捨象されてしまった。それらの考え事はどこへ行くのだろうか。もしかしたらいつの日か不意に脳裏にふわっと現れるのだろうかと思い、それを楽しみにすればいいのか、それとも案外大したことの無い考えであって大きな期待はずれを食らうことになるのだろうかと、やはり思いまどってしまうので、もうこの日の食事のことは考えないようにした。ともかくそれ以来、あの部分的に何故か茶色く変色した気味の悪いフライパンは使用していないのであった。<br />
　このままではいけない、調理を全くしないのは食の喜びの多くを知らずに死ぬまで生きることであり、それを回避すべく心機一転一念発揮、我が食卓に我が手によって美味しい料理を運ぼうではないか、そのためにはまずフライパンを購入すべきであり、オレはその予算を出すべきである、と、僕の中で厚生省辺りが声高に叫んでいるのだが、しかしそれを冷徹に突っぱねるのが我が自慢の大蔵省であった。すなわち僕のフライパン購入計画はその案件提出のおよそ二秒後には、いや、そんなのに金出すのって嫌だしと一蹴された。それに続いて労働省が、それにフライパンを買ってしまったら料理をしないといけないではないか、そんな面倒が許されると思うのか、大体フライパンを買いに行くまでの手間はどうなるんだ、などと怒鳴りつける。そうした意見が僕の中を席巻し、結局フライパン購入の発案者は背中を小さく丸めてその場に俯いてしまったのであった。おお、哀れ哀れ。<br />
　そんな食無精の僕ではあるが、それでも外すことの出来ないものが幾つかある。それはクッキーとコーヒー牛乳の存在である。クッキーについては常備二種類、どちらもブ○ボンの、片方はバタークッキー、もう一方はチョコチップクッキーであり、これらを大体一度につき五枚食べる。どちらかを三枚、もう一方を二枚食べるのである。この二つのクッキーは大体スーパーで百円で買え、一箱十五枚であるためこの方法では六回食べることが出来る。そしてこれに合わせて嗜むのがコーヒー牛乳であった。僕は買い物無精でもあるため、買い物は近所のとある二十四時間スーパーで全て済ませてしまうのだが、そこで売っているパックのコーヒーと牛乳をいつも用いている。このコーヒーは単体で飲むと数秒ほど笑った後にじわりと苦みを感じるほどに美味しく無く、純粋にコーヒーを求めているとしたら個人的には落第としか思えないのではあるが、これがコーヒー牛乳においてはそれほど差し障りが無くなるから不思議だ。コーヒーと牛乳を茶渋のびっしりついて取れなくなってしまった正直汚らしいコップに、半々の割合で注ぎ、その程よいコーヒー牛乳色に出来上がったコーヒー牛乳をクッキーと一緒に食す。僕にとってクッキーとコーヒー牛乳は、かなり分けて考えることの出来ない関係になってしまっている。この二つはどんなに食費をケチろうと頭を回した時も決して失われることはない。むしろ逆に、この二つが失われてしまう時こそこの今の僕の性質が失われてしまった時であるかもしれない。残念なのは、それが失われたところで何か悪いことが起こるのだろうかということである。何故か僕はこの嗜みが失われてしまうことを恐れているし、今の生活が続けば、誰かに取り上げられない限りはこのような軽食をずっと続けていくのだろうと思う。ちなみにこのセットは朝ご飯や夜食などになる。もう一つつけ加えるなら僕の朝ご飯は昼ご飯を兼任することが多い。<br />
　最近はこのような甘いものばかりに満足出来ず、遂にカラ○ーチョなどというものに手を出してしまった。これがまた魔性の食べ物であり、適度に辛くて美味しいその味で僕をたぶらかすのであるが、このスナック菓子はスナック菓子であることや、その辛みの成分のせいか、非常に口の中が荒れ易いのである。僕がかつて長男として在籍していた家族は何故か皆口内炎患いで、割と幼い頃から母が口内炎で苦しんでは妙な薬やビタミン剤を買って飲む姿を眺めて育った。酷い時は喉にも口内炎が出来るらしく、その痛みは何をどうしても回避することが出来ず、その苦痛がしびれによって紛れるのをただ待つことしか出来ないそうだ。僕はその苦しみをはっきりと自覚したことはまだないが、ひょっとしたらあの時のあれって喉の口内炎かしら、という症状が出た時は何度かあったような気もする。ともかく、そんな家庭にあった僕もやはり口内炎が非常に出来易く、特に季節の変わり目などは鼻水とともにどこからともなく現れて僕の生活を自堕落なものにしてしまうのである。そこにおいて、このスナック菓子はその魅力と弊害とを両手に持って、まるで性根の悪い魔女のごとく僕に語りかけるのである。その甘辛い声、多くの場合僕は誘惑に敗北する。そして口内炎も省みず、ただバリバリと貪り始めてしまうのであった。後日日中ずっと口内炎に悩まされることは言うまでもない。<br />
　ああ、それにつけても食というものは面倒臭い。何故こんなものが必要で、しかもこんなものによって快楽を得てしまうのか。本能と直結する三大欲求というものの恐ろしさか、それともそうでもしないと満足を得ることの出来ない我が身の不甲斐無さか、よく分からないが、こうやって文章をひねり出そうとするといつもこういう普段は全然考えていないどうでもいい問題ごとに行き着くのであった。ああ、このどうでもいい悩みはどこに伸びていくのだろうか。もしこの悩みを追えばいつかニューヨークにでも辿り着くのならば、このような文章を幾らでも書き続けることが出来るかもしれないが、到底そのようには思えないし、大体いい加減面倒臭くもなって来たので、もうこの辺で筆を放り投げてしまうのである。もっともパソコン全盛のこの時代、僕は久しく実際の筆を握っていないのではあるが。比喩の筆であろうか。あらやだわ。<br />
<br />
]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10356913962.html</link>  
      <pubDate>Sun, 04 Oct 2009 13:39:45 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>（仮題）ジャズマスターヒサコ　２１　おわり</title>  
      <description> <![CDATA[ <a href="http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10338439475.html"><font size="3">【最初から読む】</font></a>
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<br />
　エレベーターを下りて、フロントに出る。そこには数時間前に別れた運転手がわたしを待っていて、わたしを見るや一礼して、どうなさいますか？と聞く。わたしはちょっと待ってと彼に言い、適当な椅子に座って少し考え、ひとつの決心をしてから、プレイ中にストッキングを駄目にしてしまったので、新しいものを持って来て欲しいと運転手に言い、携帯電話を取り出し、ヨシムラさんにサービス終了の電話を掛けた。<br />


<br />


　五分後にヨシムラさんが来て、わたしたちは運転手に行きと同じの車に乗せてもらい、博多駅へ向かった。車内ではヨシムラさんが、どうだった？あの金持ちどんな客だった？どんなプレイをした？などとわたしに聞いて、わたしはそれらに適当な返事をした。<br />


「それはもう、お客様がわたしをとても大切に思って下さったんでぇ、もう何と言うかぁ、身体も近いけど心の方がずっと近い、みたいなぁ、そんな感じでした。」<br />


なんじゃそりゃ、とヨシムラさんは言い、引き続きわたしの仕事内容についての性的な質問を繰り返した。ふとヨシムラさんはわたしの持っていたケーキの箱に気付き、お前結局食べなかったのかよと言った。しかもずっと持ち運んでるから箱が傷んでるじゃねえか、これじゃあ中身ももうグチャグチャなんじゃあないの、といったことを言っていた。わたしは相槌を打ってケラケラ笑っていた。<br />


<br />


　博多駅の時間移送列車のホームに再び立つ。列車が車でしばらく時間があって、それまでヨシムラさんはずっと車の中と同じようなことばかり言っていた。わたしはヨシムラさんにビールを買ってもらい、時間移送障害用の精神安定剤を飲む振りをしてただのビタミン剤をビールで流し込み飲んだ。<br />


　ふとわたしは、自分からリンゴちゃんについての話を持ちかけた。今回のお客さん、リンゴちゃんとも寝たことがあったみたいなんですよぉ、知ってますぅリンゴちゃん？するとヨシムラさんは何故か噴き出して、ああ、お前そういやあいつと仲良かったんだっけ？全くどこ行っちまったんだろうなあのクソ女、あいつがいなくなっちまったせいで担当のオレがやたら怒られたり責任取らされたりしたんだぜ、お前の前でこんなこと言うのはアレかもしれねえけどよ、どこかでくたばってるんならざまあ見ろってもんだよ、オレはあいつが死んでからのお前の働きっぷりを知っているからこんなこと言わなくてもいいかもしれないけど、あいつやナカオみたいに変な考えを起こすなよ、オレは結構お前のこと好いてるんだから、お前を殺すようなことは本当にしたくないんだからな、店が厳しいならオレが話を付けてやるから、逃げるなよ、という風なことを言っていた。逃げませんよぉだって死にたくないもん、とわたしは言った。<br />


<br />


　列車の到着を知らせるベルが鳴り、遠くの暗闇から列車の音が聞こえてくる。わたしはヨシムラさんに別れを告げ、ヨシムラさんは振り返ってホームから去って行こうとする。かなり列車の音が大きくなった辺りでわたしはヨシムラさんを呼び止める。ん、どうした、と言いながら振り向くヨシムラさんに向けて、わたしはケーキの箱から取り出したピストルを撃った。二発のうち一発は左肩を。もう一発は見事に心臓の辺りを打ち抜いた。苦しみフラフラしながら何か言おうとするヨシムラさんを抑えて、わたしはレールに向かって彼を力の限り放り投げた。ヨシムラさんがレールの上を舞ってレールに落ちる瞬間、列車がホームに入って来た。わたしは列車到着の轟音の中微かに聞こえる悲鳴を聞きながら、無人のホームを後にして駅を出た。<br />


　駅入り口のトイレから出ると、この時間になると貧民街にも青空が広がっていて、わたしは空に向かって大きく両腕を開き身体を伸ばした。ホテルに向かう時にも見た、トイレの壁にに描かれた不細工な天使の落書きが爽やかな青空と妙にミスマッチで可笑しくて、わたしは笑った。河川敷の方を見ると一匹の少し汚れたネコがいて、わたしを見ていたので、わたしはピースサインを作って、そのネコに向かって笑いかけた。<br />


<br />


<br />


<br />


おわり<br />
]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10351995425.html</link>  
      <pubDate>Sun, 27 Sep 2009 19:28:41 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>（仮題）ジャズマスターヒサコ　２０</title>  
      <description> <![CDATA[ 　突然、部屋の隅から鳥の鳴き声が聞こえてくる。とても澄んだ奇麗な声だったけれど、ただそれはそこに鳥がいて鳴いているのではなく、明らかに録音であった。わたしは驚いたが身体は上手く反応出来ずに、その場で大きくふらついてしまった。<br />




「ああ、びっくりした？朝の合図さ。朝って言っても、これから日が昇りますよ、っていう合図なんだけど。爽やかでいい鳴き声だろう？実はこれも合成音声なんだ。凄いだろう？ぼくたちは澄みを作ることも出来るんだ。デジタルをアナログに限りなく近づけるため、日々努力しているんだ。こういう分野はまさにぼくのような電子頭脳の得意とするところでさあ、計算をどんどん積み重ねて処理し、効率性をどんどん向上させていくんだ。その代わり、全く新しい発明をすることはなかなか出来ないけれどね。何しろぼくたちにはそこまで必死になれる思考構造が存在しないから。そういうことをするのはいつだって生身で生心の人間だ。」<br />




「あなたのその身体の元の人物、でいいんですか？なんかややこしいなあ。……その人は十分に苦しんだし、十分に頑張ったと思います。」<br />




わたしが、もう殆ど出し尽くしたのか血だまりが広がらなくなって乾き始めたその上にいる彼に言った。彼は少し意外そうな顔をした後、優しく微笑んだ。<br />




「……きみにそう言わせたのも、ぼくの彼に対する忠誠ゆえさ。彼もちょっとは喜ぶのかもね。もっとも、ぼくがこの身体に関して分かるのは、あと十数分後にこの身体が生命活動を完全に停止することくらいだけど。」<br />




「あなたの身体が死んでも、あなたは生きているんですよね？」<br />




「うん。機械だからね。ああ、そう言えば、部下への連絡はこの身体が死ぬと自動的に発信されるんだ。だからきみはそろそろここを出た方がいいのかもしれないね。」<br />




「何と言えばいいのか分からないんですけど、その、成り行きとはいえ、あなたがお金を払ってわたしを買ったはずなのに、こんなことになってしまって……。わたし、本当はあなたに取り込まれた方が良かったのかもしれない。」<br />




わたしはこれからのことを思った。過去の人間がこの時代のことを色々知ってしまうのは法律に抵触する。わたしはここで様々な重要過ぎるものごとを知り過ぎてしまった。これからわたしがどうなってしまうのか考えると、それなりに安定したプランというものが全く見えて来なくて、途方に暮れそうになった。<br />




「それについては、結局はきみの身体であるところの大きな理性がきっとぼくとの同化を否定したんだ。結局、結果が結論なんだよ、こういう場合は。」<br />




彼がそう言った直後、部屋の白い壁にすっと線が入り、白い部分がどんどん縮小していった。その代わりに現れたのは、どうやら透明であるらしい壁と、その向こうに見える景色、このホテルの周りの景色だった。<br />




「きみがもしかして知り過ぎたことを不安に思っているのなら、まあ実はその心配は無くて、そういうのはどうにでもなるんだ。だから、折角だから、見ていきなよ。これがぼくたちの時代だよ。」<br />




　先程まで白い壁面で四方を囲まれていた部屋が、今度は床を除いて全てが透き通り外の風景を出現させた。太陽が昇っている方は東の空だろうか。無数の半透明な流線型のビルが群れを成し、オレンジ色の光を受けて輝いている。振り向いた方角はまだ夜が残っていて、線路に沿って続く巨大な壁の手前にはやはり未来的なビルが、そして壁の向こうにはわたしたちの時代でもあまり美しくは無さそうな雑居ビルが所狭しと広がっていた。未来的なビルの街は清潔そうだけどどこか人間味に欠けているように見え、貧民街の方はそれはそれで沈痛な雰囲気を醸し出しているようだった。朝のやって来る東の空と夜が逃げて行く西の空の対比だけが、わたしの知っていたそれと殆ど変わらなくて、わたしは何故だか胸や目が沁みているのに気付いた。<br />




「どう、この素晴らしい世界。きみの時代の方がマシだろうけど、これはこれでいいものだよ。ちなみに、ぼくの工場はあの太陽の向こう側の壁の、その向こうにあるんだ。ここからは見えないけどね。本当ならそれこそ飲み物でも飲んでゆっくりして行って欲しいけど、でもこっちの都合でもうそうも言ってられないね。ごめんね。」<br />




「……じゃあ一杯だけ、戴きます。」<br />




「別に毒も薬も入って無いから、好きなのを飲むといいよ。」<br />




　わたしは冷蔵庫からビール瓶を取り出し、蓋を開けグラスいっぱいに注ぎ、一息に飲み干した。わたしが大きく息をつくと、彼は可笑しそうにケラケラ笑った。<br />




「そんなビールでいいのかい？まあでも、きみがそれを求めるのならそれでいい気がするよ、うん。……ところでさ、どうしてケーキの箱にピストルなんて入れてたんだい？これだけは本当に理解に苦しむよ。ぼくは死なないけど、これは今はっきりさせないと気持ち悪くて後々困るんだ。ねえ、教えてよ。」<br />




わたしはナカオさんのことを思い出した。目の前にはナカオさんが一緒に逃げようと言っていた世界が広がっていて、日が昇る。わたしはナカオさんについても感傷的な気持ちを抱かなくてはならなかった。とっくに容量を超えていて、わたしははち切れそうだった。<br />




「……あのケーキの箱はわたしと一緒に列車に乗った人が持って来たんです。わたしと一緒にこういう仕事から逃げ出すつもりで。死んじゃったんですけど。」<br />




「へえ、そうなの。なんだ結局みんな逃げたいんだなあ。きみたちも大変なんだね。ぼくがこういうことを言っても信じてもらえないだろうけど、幾らか同情するよ。」<br />




彼はそう言った後、バラバラの方向に向いていた目を一度だけ上手に制御し、しばらく虚空を見つめて、何かを見つけたような様子で、もう一言付け加えた。<br />




「……ああ、これはその、観測した数値とかそういう情報からじゃないんだけど、どうやらリンゴは踊っているよ。もう何も分からないくせに、楽しそうに踊っている。何でぼくがそう言えるのかよく分からないけれど、きみの為の気休めかもしれないけれど、ぼくがきみに言える、残っていることはそれくらいのもんさ。あとはそうだなあ、「お嬢さんっ、お逃げなさいっ」ってね。そこのドアを開けたらエレベーターがあるからすぐだよ。運転手もすぐ来るさ。リンゴさんについては、申し訳無かったね。ぼくとぼくの身体のこんな茶番に付き合ってくれて、本当にありがとうね。じゃあ、さよなら。」<br />




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]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10351963861.html</link>  
      <pubDate>Sun, 27 Sep 2009 18:41:26 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>（仮題）ジャズマスターヒサコ　１９</title>  
      <description> <![CDATA[ 「ぼくがきみの心を取り込む意味を無くしたもうひとつの理由は、そういうことを望んだ人間の意思が今、この身体と一緒に滅びかけているからだよ。ぼくとしては少し残念な気もするけど、もう助からないね。」<br />

床に伏しているわたしをよそに、彼は話を続けた。彼は自分の身体とその周りの血を見渡して、ひとつため息をついた。その調子は別にそれまでと何も変わっていないはずなのに、どこか妙に疲れ切った感じがして、わたしは少し気になって彼の方を見た。<br />

「さっきも言ったけど、見ての通りもう捕って喰うことも出来やしないし、部下を呼ぶ気も無いから、折角だからもうちょっと聞いてくれるかい？ぼくは確かに疑似乱数と不等方程式で出来ている血の涙も無いような奴かもしれないけれど、この身体についてはそれなりに長い間こうやってきたから愛着があるし、何より創造主に忠誠を誓わない人工知能は無いからね。それにきみに妙な誤解を与えたままこの身体が死んでいくのも避けたいしね。」<br />

彼の左手二本指の連打はいよいよある程度均等さを保とうとしていたリズム自体が崩れ始め、動かずにぶるぶると震えている時間の方が多くなった。<br />

「そう、ぼくが話しておきたいのはこの元々の身体の持ち主であった人間についてだ。本当なら彼の記憶はぼくが全て保存しているから、きみがぼくに取り込まれればこんな手間も省けたんだけど、今更ねえ。まあぼくは別に執着は無い。ぼくが執着を持つのは新技術の開発と会社の経営に関してばかりだ。きみの心なんかのどうこうはどっちかと言えば、この身体の方の執着だ。懸命な人工知能として機能する部分におけるぼくとしては、正直なところ他人の心との同化というのは、伝達の効率や心の複数所持による知識や思考ルーチンの増大に関してくらいしか意味が無いんだ。もちろんこの辺はそれなりに大事なことだし、それに複数の心がひとつに統合されていくのが効率的で美しいとは本当に思うけど、でもどちらも、どうしても必要ってほどのものじゃない。」<br />

　わたしは涙を手の甲で払いながら彼を見る。次第に彼の瞬きの回数が増えているような気がした。<br />

「でも、彼は拘ったんだ、人の心と自分の心が合わさることに。それは効率とかそういう要素を半ば言い訳にした彼の執念のようなものだよ。要するに人恋しかったんだ。彼は孤高で天才だったけど、あまりに前の方が強すぎたのかねえ。僕のメモリに残っている彼の記憶を見ているとまあ、人付き合いに恵まれていた風にはまるで見えないね。」<br />

　わたしが足に付いた彼の血を拭おうとすると、それはストッキングに染み込み乾き、取れなくなっていた。もう捨てるしかないなと思った。<br />

「勉強くらいしかさせてもらえなくて、しかもその見返りの愛も受け取れないような家庭で育った彼は、まあ性分でもあったんだろうけど、学校でもろくに友達も出来ず、一人籠っていくようになったんだな。性分が先か孤独が先かはどっちでもいい話さ。そういうのは循環し互いに増幅するんだから。なまじ素晴らしい頭脳を持ってたもんだから、籠るとどんどん彼は才気に満ちていった。才気走るにつれてまた、彼の孤独の暗闇も膨れ上がるしね。どんどん世俗の引力から逸脱していく勉強熱心な生徒が時々陥るのは狂気だろうね。でも彼の人生にもひとつだけ、普通の人並みに幸せなことがあったんだよ。女の子さ。」<br />

彼が何を見ているのかもはやわたしには分からなかった。焦点が全く合わないのだろう視線が狭い部屋の通路を泳ぐ。彼の左手中指は遂に痙攣さえしなくなった。人差し指だけが小さく振動し、時折思い切ったように床を弱々しく打ったと思ったらまた振動を繰り返していた。そのような様子でも、彼の語り口には何の変化も見られなかった。<br />

「その娘はどっちかと言えば可哀想な娘さ。自分の知性を大人びているとか達観しているとか考えて、クラスの他の生徒をみんな見下すような、そしてその結果何も出来なくなっていくような。確かに頭は良かったよ。見た目もそんなに悪くないんじゃないかな。でも肌が、少なくともぼくの基準で言えば病的に白いんだ。身体も細かったしね。そんな彼女がある日彼に言ったのさ。「イナザワ君は他の人達とは違うよね」当時の彼は、彼女に対してはあくまで割と話をする女子程度の人間でさ、結局付き合うことは無く、そのまま二人違う大学に行って、でもさ、そんな時期になって彼は急に人恋しくなってしまった。遠くの大学に行ったことによるホームシックのせいか、それとも大学においてひとり暮らしの破綻を迎えたせいか、ともかく彼は疲れ果てちゃって、人間らしさが恋しくなっちゃったんだな。でも学問ばかりの彼にはロクな人付き合いが無かったのさ、あの自意識過剰気味の哀れな娘を除いて。ねえ、この男にとって彼女のことが急に蜘蛛の糸やら暗い水の中の小さな太陽みたいになっちゃったんだよ。冷徹な天才だったくせに惨めなもんさ、ねえ、久しぶりに彼女と会ったのが病室で、彼女が植物人間になってたってだけで彼は初めて、どうにもならないほどに沈み込んだんだから。どうしても彼は彼女と話をしたかったのさ。彼の人生で唯一彼に人間的な好意を向けてくれたかもしれない彼女と、どうにかして心を通わせたかったんだねえ。ベッドに横たわる、もの言えなくなって本当にただの心の器になってしまった彼女と。ねえ、彼がぼくみたいなのや精神の電気信号化技術を必死こいて開発した理由なんて、本当のところはこんなものだったのさ。」<br />

彼はやたらと皮肉っぽさをアピールしようとして、歪んだ笑いを作りだそうとする。ただ、目のピントが合わないそれは少し滑稽で、壊れたピエロのような哀れさがあった。<br />

「彼は上り詰めたよ、そういう分野の第一人者にまで。ただ、そういった仕組みがある程度の完成を見た頃には病院に彼女の姿はもう無く、結局彼は彼女の心は手に入らない。そして全ての技術は応用であるから、彼の技術を用いて人工知能を積んだ工場労働者やその管理システムを作り上げる案が生まれた。彼はと言えば、結局唯一の救いだったかもしれない彼女をすら手に入れることが出来なくて、そのくせ商売の話ばかり舞い込んで来て、ほとほと疲れ果てたんだろうね。そういう社会に愛想が尽きたんだろうかね。彼はもう逃げ出すことを選んだのさ。彼の最後の発明が、抽出した心を破棄する方法だったんだ。彼は自分の記憶をぼくのメモリにコピーして、自分で自分の心と身体を遠心分離させて、そして彼の身体を受け継いだぼくが彼の心を破壊した。それからはぼくは技術の商業化や効率化を的確に進めたのさ。言うなれば彼は僕に色々押し付けて逃げて行っちゃったんだな。」<br />

少し言葉を切って、彼は咳き込む。その音の濁り具合が彼の身体の限界を感じさせた。ひとつ大きく息を吸い、彼は続けた。<br />

「でも知ってるかい？生きている身体はそれ自体が意志を持っている。それは身体こそが「大きな理性」であり、ぼくやきみが持っている心もまた、その大きな理性の中の小さな理性でしかないからさ。確かに理性的なことは心が制御して、身体は生理的欲求を心に突きつけてくるだけのようにも思える。でも、時々身体が生理的欲求を遥かに越えて働きかけるとき、ぼくたちの小さな理性はそれに制圧され、支配される。その論を裏付けるのが、例えばこの身体が他者との心の融合を求めることだったりしたのさ。彼の心を砕いても、この身体には彼の心が抱いた欲求の大元があった。この身体はぼくに多くの他者の心を与えては交換し、そしてたまたまリンゴさん、きみのリンゴさんに出会った。魅了された。頑張って調教した。でもそれももう終わりだ。僕は血液を失い過ぎている。」<br />

　わたしは彼がまたリンゴちゃんのことを話に挙げたのを受け、酷く困惑し、この目を潰してしまいたい一心で強く目を閉じた。しかし、しばらくしてから思い直して、目を開いて彼に尋ねた。<br />

「あの、わたしがあなたを撃った時、わたしはわたしの身体がリンゴちゃんとの思い出をトレースしている風にしか見えなくて、まさかこういう風になるなんて……。」<br />

すると彼は可笑しそうに笑って言った。<br />

「きみの心は確かにちゃんと押さえつけていたつもりさ。だからきみがそう感じ、結果こうなったのもまた、きみの身体の理性によるものと言えなくもないんじゃあないかな。どうも彼は、身体の死んだ女の子を想定してばかりいたから、そういう方面にはあまり目が行かなかったようだけど。きっときみは全身でリンゴさんのことを愛していたのだろう。いいねえ。彼が知ったら、とても羨ましがるだろうねえ。ふふふ。」<br />

彼が微笑む。左手の人差し指がいつの間にか完全に静止していた。<br />

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]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10351907078.html</link>  
      <pubDate>Sun, 27 Sep 2009 17:15:08 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>（仮題）ジャズマスターヒサコ　１８</title>  
      <description> <![CDATA[ 　男は段々血みどろになっていく。ドアのそばの壁にもたれて、自分が制服の内側から血を流している様を淡々と眺めていた。彼は苦しそうな表情を全く見せず、ただ仕方が無さそうな、残念そうな顔をしていた。<br />

「ああ、やっちゃったなあ。これじゃあもう使い物にならないよ、この身体も。ああ、なんてことだ。」<br />

先程までの調子と何も変わる所無しに、彼が呟く。まだ動かすことの出来た左手人差し指と中指を交互に床に軽く打ち付けながら、何の恐怖も無い目でわたしを見た。<br />

「いやあ、ははは。あるんだねえ、こんなことも。まいったなあ。ううん。このままじゃあぼく、きみを抱くことが出来ないなあ。おかしいなあ、折角きみを買ったのになあ。ぼくの計算違いかなあ。ははは。」<br />

「イナザワさん、もしかしてあなたも人工知能とかそういう……。」<br />

わたしが尋ねると彼はわざとらしい笑いを止め、わたしの方を見ようとするが、どうもピントが合わないらしく、何度も瞬きを繰り返した。<br />

「ううん、調子が悪いなあ。流石にもう駄目か。はは。そうだね、今こうやってものを考えきみに話しかけているぼくもまた、人工知能によるものなのさ。凄いだろう、ゼロと一だけでこれだけものを考えられるし話すことも出来るんだ。多分きみたちの時代からすれば考えられないことなんだろう？」<br />

彼はそう言ってわたしに微笑みかける。彼の右足周辺と右横腹や股の間などから流れていく赤い血がフローリングを汚した。<br />

　わたしはいつの間にか彼の声が幻惑作用も抑圧作用も失っていることに気付いた。まだ身体の大部分は痺れていたが、わたしは少しふらつきながら、冷蔵庫や壁に手をついて、足で床を踏みしめた。男の血がわたしのストッキングを穿いた足に付着したが、特に気には留めなかった。<br />

「見た目の割に、あまり痛くは無さそうですね。」<br />

「そうだね。人工知能であるぼくはこの身体のあらゆる情報を数値化して、様々な動作を計算し各部に指令を送る。ぼくは身体の情報を観測し、命令するだけなんだ。身体の異状とか痛みとかも数値化はされるけれど、実感としてそれを感じることは無い。ぼくが今、この身体から流出している血液の量を計測することは容易だけれど、それによって気分が悪くなったりだとか、意識が薄れたりとか、そういう影響は全然無いんだ。人工知能と身体のエネルギー系統は別々だしね。だからぼくは、今こうやって身体が痛んでぼくの伝達を実行出来なくなってしまっては、ただその状況を観測するか、こうやって暇つぶしに近くにいるきみみたいな人と話すことしか出来ない。まあ折角だから、もう少しぼくの話し相手になってよ。何せぼくはいま、きみを買っているんだから。もし怯えているのなら心配無いよ。こうなってしまってはもう、ぼくはきみを取り込めない。そもそもあのドアの向こうに移動出来ないしね。ぼくはこう見えても嘘はつけないように出来ているんだ。人工知能の面倒な限界さ。これがいい場面も多いんだけどね。」<br />

そう言って彼は苦笑いをわたしにして見せる。<br />

「じゃあその身体は生身と言うか、普通の人間なんですか？」<br />

わたしは痙攣する膝を何とか押さえつけて、よろよろと立ち上がる。<br />

「うん。見ての通り血も流すし、実は体温もちゃんとあるんだよ。きみも感じただろう？ちょっと常人よりも低めかもしれないけど。人工知能に関するものは全部頭部に集中していて、身体はそのまま人間なんだ。この身体を元々持ってた人間はね、若くしてぼくを作り上げたんだ。今や人工知能は人間の多くを越えているんだけど、彼はまれに見る天才だったね。何しろぼくを作り上げたんだから。これでもぼくはおそらく世界最高水準の人工知能だよ。スタンフォードの巨大計算機だってぼくを解析出来ないだろう。まあ、ぼくの計算では、ぼくくらいの性能を有したお仲間さんたちは世界中に何体かいるんだけどね。」<br />

「その身体、放っておくと死んじゃうんじゃないですか？もしそうなったら、あなたはどうなってしまうんです？」<br />

わたしがそう言うと、彼は自分の左手を見る。二本の指による連打はその速度を著しく下げ、すぐに止まってしまいそうなほどだった。<br />

「どうもならないよ。ぼくのこの頭脳はやがてぼくの部下が回収に来て、適当な代わりの身体に移される。きみは信じられないかもしれないが、別に負け惜しみとかそういうのじゃなく、ぼくのこの頭脳自体には今のところ何の損傷も無いんだ。他の身体に映ったらまた社最大の頭脳そして社長として日々精進と活躍を続けていくつもりさ。まあまだ回収に来るよう連絡していないから、きみはどうにもされないよ。別に今部下を呼んできみを捕まえることも出来るけど、そんなことしてもどうしようもないしね。この身体は流石にもうどうにもならないけれど、一応ぼくの会社の頭であるこのぼくを創った人の身体だから、多分粗末にも扱えないだろう。社を挙げてそれなりに手厚く葬られるんじゃあないかな。」<br />

「どうしようもないって？わたしを捕まえて、後で心を抜くことも出来るんじゃないんですか？」<br />

わたしがまだ覚束ない頭を一生懸命に回して尋ねると、彼は少し残念そうな表情をしながら言った。<br />

「それはもう意味無いんだ。きみの心を後で抜いても、幾つかの理由からもう意味を失ってしまう。ひとつは、ぼくの身体が死ぬことでぼく自体は損傷しないけど、ぼくが持っていた他人の心のポケットに伝達する部分が壊れてしまったんだ。ぼくの知能の電気信号と、電気信号となった心が合わさる場所だったんだけど、これはぼくの電気信号とこの身体の血液の幾らかを送ることで機能していた。さっきから流れる血液の量がどんどん減っているし血圧も下がり続けている。これじゃあポケットの機能はやがて死ぬ。ああ、ポケットが死ねばその中の電気信号もやがて消滅するよ。ぼくの百科事典代わりの心も、計算機代わりのものも、秘書代わりのものも、なんとなく入れていただけの心も、みんな消えちゃうんだな。もちろん、リンゴさんの心も。」<br />

　リンゴちゃん！わたしは彼の叙述を聞いて、頭の中が熱くなった。彼が話したことはわたしにとって、急に目の前に現れた残酷な事象であった。わたしは、彼がリンゴちゃんの心を持っていることを本当に信じていたけれど、それが失われてしまうことを信じたくはなかった。<br />

「そ、そんな……。え、消えちゃう……？噓。え、いや待って。ど、どうにか出来ませんか！だってあなたの知能は損傷していないんでしょう！？え、ねえ、ねえ！」<br />

わたしは酷く取り乱す。言葉が感情に追いつかず、とてももどかしい思いをした。<br />

「うん、そのことについては、本当に残念だね。はは。」<br />

男はそう言って、わたしを気遣った風な笑顔を見せた。その顔があまりにも誠実そうで、わたしはリンゴちゃんが消えてしまうことを突きつけられてしまったようで、頭の中が本当にグチャグチャになった。<br />

「そんなっ、そんなあ……。」<br />

わたしは倒れたままの彼の胸に崩れ落ちる。血のせいで少しどろりとした感触があったけれど、まるで気にも留めなかった。<br />

「はは、やっとぼくの胸に飛び込んで来たね。抱かれてくれる気になった？なんて。お返しにひとつ教えてあげよう。彼女はきみがぼくの前にやって来てからずっと、子供みたいにはしゃぎ回っていたよ。ぼくの電気信号が途絶えるまでずっと、無邪気に笑い続けていたよ。彼女はぼくの中で、ぼくの目を通してずっときみを見ていたし、それでずっと嬉しそうだったんだよ。ぼくは嘘はつけないんだ。これは本当なんだ。信じて欲しいな。」<br />

彼はそう言って、少し辛そうに笑った。わたしは心も身体の中も共に、真っ白になったような気がした。わたしが泣き崩れるのを眺めているわたしは、わたしの中のどこにも存在しなかった。<br />

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      <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10351128927.html</link>  
      <pubDate>Sat, 26 Sep 2009 16:25:56 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>（仮題）ジャズマスターヒサコ　１７</title>  
      <description> <![CDATA[ 　ケーキの箱を見て思い出したのもやはりリンゴちゃんのことだった。わたしとリンゴちゃんはケーキを買って一緒に食べることも何度か経験していた。一度、同じようにケーキの箱を逆さまに落としてしまって戸惑った時があったけれど、リンゴちゃんは笑って、箱を拾い上げて開け、中の潰れたケーキを取り出して皿によそった。わたしにフォークを渡して、大丈夫大丈夫、食べなきゃ勿体無いし、それに全然問題無いわなどと言った。そして箱の上部に付いていたショートケーキのクリームを指に付けて、わたしの顔に塗った。わたしはむっとして、まだ箱に残っていたクリームを取って彼女に同じことをした。そうしてわたしたち二人またいつものじゃれ合いに飛び込んだ。わたしがケーキの箱を落として悲しくなりそうだった気持ちは、どこかに消え去ってしまった。<br />


<br />


　気がつくとわたしは、その落ちたケーキの箱を抱きしめていた。抱きしめようと思ってそうなったのではなく、殆ど勝手に身体が動いたような気がした。<br />


「あららどうしたの？なんで泣いてるんだい？そんなにケーキを落としたのが残念で仕方が無かったのかい？浅ましい身体だねえ。惨めったらしくていけない。」<br />


男にそう言われて、わたしは自分がいつの間にか実際に涙を流していることに気付いた。右手で頬に触ると、確かに顔の上をなぞる液体を感じ取った。どうしてそういう風になっているのか自分でも分からず、ちょっと驚いて、右手に付いたその液体を舐めたら、少しばかり塩っぽかった。<br />


「ぼくがケーキを後で食べた言っていったのは、あれは本当の気持ちからさ。きみと一緒に、あとリンゴさんと一緒に食べようと思ったんだ。でも、落としてしまったんじゃあ、ちょっとおあずけだねえ。大丈夫だよ。あとで僕が買ってあげる。だから一緒に食べよう。きみがぼくになれば、ケーキは一人分で済むからいいねえ。別にケチなことをしようって言うんじゃあないんだ。単純に効率が良くて美しいということさ。」<br />


男が話し続けている間、わたしはずっとリンゴちゃんとの記憶を辿っていた。あのときリンゴちゃんはグチャグチャかもしれないケーキの箱を気にもせず中に手を入れ、ケーキを取り出した。わたしの身体は自然とそれをトレースしようとした。わたしは心の奥でわたしの身体が半ば勝手にそのようにするのをぽかんとしながら眺めていた。すると、わたしの身体の方から意識に向かって、様々な記憶が入り込んで来るのを感じた。それはわたしの身体が捉え続けて来たリンゴちゃんに関するあらゆる情報だった。彼女と一緒に食べたケーキの味、一緒に飲んだビールの味、わたしの前で笑い、怒り、ふてくされ、悲しむリンゴちゃんの姿、肌を重ねた時のリンゴちゃんの胸の、頬の、太股の、唇の温度、そしていつかの植物園で二人ベンチに座りジュースを飲んでいた時、ちょっと恥ずかしくも手を繋いでいた時の温度、質感、匂い。あのときわたしはどっちの手を出したっけ。利き腕だから右腕？いや、確かリンゴちゃんがわたしの左側に座って右手を差し出したから、わたしはあのとき左手を、そう、こうやって指を重ねて、握って……。<br />


　わたしはわたしの身体がそういう記憶を心に送りながら、それらの一部をトレースするのを見守っていた。記憶は混濁した形で動作となって現れる。ケーキの箱に左手を入れ、中に入っているものに触り、握る。あれ、手を握るってこんな感じだったっけ？そもそもこれって手なの？っていうかケーキなの？わたしの心がそう疑問を持つのも知らないで、わたしの身体は箱の中で何かを握る。<br />


「ああ、その箱にそうやって手を突っ込んだら駄目だよ。手がケーキで汚れちゃうじゃあないか。見てられないよ。何も飲まなくていいなら、諦めて隣の部屋へ行くよ。どうせ後で幾らでも食べれるし飲めるし、それに出会えるんだから。ぼくやリンゴさんと、楽しく可笑しく暮らそう。ケーキもお酒も何でも、ぼくが買ってあげるから。」<br />


男が再びわたしの右手を持って、わたしを引っ張っていこうとし始めた。わたしの心は彼の言葉の重圧で潰れかねなかったけれど、わたしの身体、わたしの左手の指先が何かを握り、そして何かに指を掛けるのを感じていた。何だろうわたしの手が握っているこれは。<br />


「だから早く、ぼくと一緒になろう。さあ、行こう。」<br />


男がそう言って左腕を伸ばし、ドアノブを握る。男はドアノブを回そうとしていた。<br />


　わたしの左手の人差し指が、何かを引いた。<br />


　わたしの左手が握っていた何かは音を立てて、ケーキの箱は飛び出したものに破られ、その飛び出した何かが男の右足を貫いた。<br />


「……えっ？」<br />


男は気付く。銃弾は貫通して白い壁にひびを入れた。撃たれた足からはじわりと血が流れ始める。男の赤い血。男は不可解そうにそれを眺めている。わたしの心も意味が分からずそれを見ていたが、わたしの身体が左手をケーキの箱から出した時、やっとその意味が少し理解出来た。<br />


　わたしの左手が握っていたのは、わたしの手のひらよりもう少し大きいくらいの、黒い小型のピストルだった。撃った反動で指が痺れていて、ピストルを持つ手がブルブルと震えていた。男はそのピストルを見て、表情を硬化させたままそれを取り押さえようとした。わたしの身体はまだリンゴちゃんと手を繋ぐことを考えている。わたしの左手はピストルをリンゴちゃんの右手だと勘違いしている。<br />


　今度は男の左胸に、わたしの左手がぎゅっと握ったことで飛び出したものが命中した。男はそれでもわたしの左手が持っていたものを抑えようと左手を伸ばしたが、それが目的を果たす前に、本体であるところの男の身体が体勢を崩した。学生服の黒い色は男の胸から流れる赤い血を隠すから、制服の隙間、ボタンの間や裾の下からそのおびただしい量の赤色が流れ出さなければ、わたしは彼の身に起こった惨状を理解することが出来なかった。<br />


「えっ？何できみ、そんなものを持っているの？」<br />


男は相変わらず淡々とした調子で実情を認識し、良く理解出来ないといった様子でわたしを見る。わたしは左手が握っていたピストルを眺め、次にそれが入っていたはずのケーキの箱を眺める。ケーキの箱はわたしの身体が左手を抜き出すときに飛ばされて、ドアの方に一メートルほど飛んで行ってしまっていた。強引に左手を引っ張りだしたせいか、開け口がたわんでしまっていた。開いた箱の口の奥にはケーキなど少しも見当たらなかった。このケーキの箱はナカオさんが持って来たものだったはずとわたしは思った。そういえばナカオさんはどうなったのだろう、もう完全に始末されてしまったんだろうかと考えた辺りで、男は遂に膝を突いて大きく崩れた。<br />


　わたしの左手は発射の反動に耐えられなくなって、またわたしの身体の自動制御がふっと途切れて、持っていたピストルは床に落ちた。床にぶつかる時、ピストルは思った以上に軽い音を立てた。わたしの身体が最後にわたしの心に送り込んだ情報は、わたしが幼い頃に見て怖がったひまわり畑を、大きくなったわたしとリンゴちゃんが手を繋いで眺めている風景だった。それは実際には見たことの無い景色だったから、可笑しくてわたしは笑った。<br />


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      <link>http://ameblo.jp/oka19zaki/entry-10350981228.html</link>  
      <pubDate>Sat, 26 Sep 2009 11:54:11 +0900</pubDate> 
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      <title>（仮題）ジャズマスターヒサコ　１６</title>  
      <description> <![CDATA[ 「さあ、ぼくも彼女もきみに手を差し伸べている。一緒に行こうよ、一緒に生きていこう。きみは全ての仕事から解放され、何の悪い影響も受けずにその心を保ち続けることが出来る。その美しい心を、ずっといつまでも美しいままで。」<br />

　彼の言葉はどんどん大きく強く聞こえるようになる。わたしはこれが一種のマインドコントロール的なものなのかもしれないと思った。音そのものの持つ無機質な誘惑性、幻惑性をはっきりと意識した。すると今度は彼の発する音がわたしの頭を圧迫するように響き始めた。わたしが意思を浮上させようとするとすかさずそれを撃ち落とそうとする、まるで発狂して乱れ撃つ鉛のピストンのようだった。それも高機動。結果わたしの意思は凄く疲れた。<br />

「さっきも言ったけど、もうノウハウはかなり構築出来たから、リンゴさんの時のような苦しみみたいなのは感じずに済むよ。目を瞑ればきみはすぐに心を飛ばすことが出来る。その維持の面倒な身体、いつかは劣化してボロボロになって見苦しくなってしまうかもしれない身体なんかさ、もう脱ぎ捨てておいで。こんな擦り減りながらも永続する辛い世界を生きていかなくていいんだ。心だけになれば永遠に擦り減らずに過ごせる。平穏に暮らしていくことが出来る。」<br />

彼はそう言ってしゃがみ、倒れたわたしの肩を持って、床を引きずり始める。特に肌が露出している腹や足のあたりが擦れていて、わたしはそれをゆっくりと知覚した。<br />

　意思を浮上させたら叩かれるので、わたしは半ばふてくされて自分の生活のことを思った。確かに店とホテルと誰かの家、そしてわたしの家の往復で出来ているわたしの生活は、あまり素敵とは思えないしむしろ客観的に考えれば結構酷いのかもしれないなと思った。わたしは苦笑いを浮かべたかったけれど、これも封じられた。顔が床にぶつかり、なまじ痛みをまともに感じないほど神経が痺れていたから、わたしは次第に可笑しくなってケラケラ笑いたくなった。感覚と実際の身体のコントロールが上手くいかないのが非常にもどかしく思えた。わたしは黙って男に引きずられ続けた。ぼんやりと天井を見ても、少し黄色がかった白い天井と普通の丸い照明しかなくて、少しつまらなく思った。<br />

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　わたしと彼は冷蔵庫の近くまでやってきた。近くにあるドアの奥にでもいくのだろうとわたしは思った。冷蔵庫の上の大には先程男が注いでそのままの水の入ったグラスがあって、男はそれを手に取り、水分を補給した。グラスの周りに発生した大量の水滴が、彼がグラスを手に取ったことによって垂れ落ち、フローリングやわたしなどを濡らした。水滴は十分冷たく、わたしは首筋に落ちたその感覚がじわじわと広がっていくのを感じて、変な寒気に襲われた。その寒気が通り過ぎた後には、神経が幾らかまともになった。<br />

「ああ、これからはぼくの飲む水がきみの飲む水になるし、ぼくの食べるものがきみの食べるものになる。効率的にも、本当に美しいことだと思うよ。毎日きみと彼女を傍に置いてぼくは過ごす。きみたちの分の労働も生活もしがらみもぼくが全て負担しよう。きみたちが苦労するようなことはこれから二度と無いと断言しよう。それどころかきみたち二人は永遠に絡み合って生きることが出来る。双子のように、姉妹のように、友達のように、恋人のように。それは」<br />

「あの、何か飲みたいんですけど。」<br />

わたしは初めて、彼の言葉を遮った。この言葉はわたしが意思を込めていったと言うよりは、単純に身体が水分を求めていて、その欲求がぽろりと身体の中から出てきたといった感じであった。だから彼の声による抑圧を受けずに済んだ。<br />

「ん、ああ。何か飲みたい？そうだね。身体があるとそういうことを考えなければならないから面倒だよね。だが、いいだろう。ぼくはまだ、きみを身体ごと抱きしめなければならない。そのために、きみの身体が飲み物を欲するなら、ぼくも与えなければならない。どうする。ぼくが何か取って注いであげようか？それとも自分でするかい？でも自分でするなら、まず立たないといけないよね。それとも、その倒れたままで冷蔵庫を開けるのかい？」<br />

　わたしは男の声を無視は出来ないけれど、その意思に対する圧力となった声に何とか耐えながら、痙攣する右腕を冷蔵庫の取っ手に伸ばした。これも不思議なくらい自然に行うことが出来て、わたしは半ば驚きながら冷蔵庫のドアを開ける。<br />

「あら、自分で開けられるのかい？大したもんだねえ。じゃあ、最期の情けって言うのかなあ、ぼくがコップを取ってあげよう。好きなものを飲むといいよ。」<br />

そう言って男はしゃがみ、わたしの顔の前にコップを置いた。コップの向こうには隣の部屋のドアへ続くフローリングの通路があった。ドアは古風でちょっと気品を加えたようなデザインになっていて、葡萄の蔓や鳩があしらわれていた。ドアノブは輝きを抑えた上品な金色で、わたしはそれがメッキだろうかそれとも本当の金を使用しているのだろうかと考えたりした。<br />

　そうしてから冷蔵庫の中を見ると、飲み物を探す前に、わたしは自分で入れたケーキの箱がそこにあるのを発見した。薄い桃色で、可愛らしいリボンの絵などが描かれていて、ちょこんとしたその可愛らしさがあざとく感じられてわたしはそこまで好きじゃなかったそのケーキの箱、でもあのケーキ屋のケーキが美味しいのは確かだった。<br />

　わたしは急にケーキが食べたくなった。ケーキの箱に手を伸ばして、その手は酷く震えていたけれど、何とかケーキの箱を掴んだ。そしてそれを引っ張り出そうとしたけれど、箱が冷蔵庫の棚からその重みで落ちてしまう位置まで引っ張ったところでわたしの腕が痺れてしまい、結局ケーキの箱はひっくり返りながら、わたしの背中に一度ぶつかった後に床に落ちた。<br />

「ああ、ケーキなんてのもあったねそう言えば。ぼくもすっかり忘れていたよ。言ってくれればぼくが取ったのに、そんなにひっくり返してしまってはもうどうしようもないね。きっと中のケーキはグチャグチャさ。まったく面倒臭いね身体ってやつは。」<br />

彼がそう言って笑っている間、わたしは箱が背中にぶつかったその感触を吟味していた。勘違いかもしれないと思ったが、その感触はケーキの箱が背中に落ちたにしては、妙に堅く感じた。<br />

　わたしは冷蔵庫を見捨てて、その落ちたケーキの箱の方を向いた。ケーキの箱はちょうど上を下にして落ち、衝撃で少し潰れていた。何故だか、その様子は少し可愛らしくもあった。<br />

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      <pubDate>Fri, 25 Sep 2009 16:48:36 +0900</pubDate> 
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