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    <title>イラリバナナさんのブログ</title>  
    <link>http://ameblo.jp/aiirari/</link>  
    <description>イラリバナナ（市川昭子）</description>  
    <language>ja</language>  
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      <title>【愛の残影】■第15章■ クリスの過去</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第15章■ クリスの過去</p>
<br />
<p>由紀子の口から二人は愛し合っていることを聞いたラウラは、<br />
「やはりそうだったのね…」<br />
そう言って由紀子に背を向けた。<br />
「あなたは彼を信じている。でも、彼は信じるに値しない。<br />
こんな無慈悲な人は世の中に多くはいない…。<br />
別れるなら今のうちよ。彼の本性を知る前に別れなさい」<br />
そう捨ておいてラウラは由紀子を置いたまま屋上から去った。<br />
一人残された由紀子は、ラウラが残した意味深刻な言葉を<br />
困惑の中で反芻していた。<br />
“クリスは信じるに値しない人間？彼を愛することも彼に愛されることも<br />
ラウラは否定した…。追々クリスの本性を知るって何なの？”<br />
今までこの地に来て予期しないことが起こったが、<br />
すべてうれしい出来事ばかりあった由紀子にとって、<br />
ラウラの忠告は痛みを伴った悲しいものとなっていた。<br />
なかでも、理由も言わずに彼との恋愛は成就しないと<br />
言い放たれたことに大きな衝撃を受けていた…。</p>
<br />
<p>自分の部屋に戻ると慈悲に満ちた優しい笑顔のアンナが<br />
真新しいシーツを持って立っていた。<br />
由紀子にシーツを手渡しながら温かな声で言った。<br />
「勝手に入ってごめんなさい。ドアが開いていたから<br />
部屋の中にあなたがいると思って開けてしまったの。<br />
でも、どうしたの？顔色が優れないわ。風邪でもひいたの？<br />
具合が悪かったらいつでも遠慮しないで言ってね。<br />
クリスから預かった大切なお嬢さんだから。<br />
ここにいる間は私を実の祖母と思ってくれていいのよ。<br />
困ったことがあったらなんでも相談して。<br />
きっと力になることができると思うから」</p>
<br />
<p>由紀子はアンナにクリスの信じるに値しない理由を<br />
聞きたかったが躊躇った。<br />
当然、その理由は良からぬことであろうから、<br />
尋ねればきっと胸を痛めると思ったからだ。<br />
この優しいお年寄りに哀しみを与えてはならないと<br />
思ったから、だから、何事もないと言おうと思った…。<br />
しかし、自分を抱きしめようと両手を差し出すアンナを<br />
目の前にした由紀子は、何もかもを話したい衝動に駆られ、<br />
迷いに迷った挙句、彼女に真相を尋ねることを決心した。</p>
<br />
<p>立ったままのアンナに座るようにソファを勧め、その横に座った由紀子は、<br />
アンナの手を取って、これから話をすることはもしかして、<br />
あなたに哀しみを与えるかもしれませんと断った。そして、<br />
たった今屋上でラウラから言われたことを、一句一句思い出しながら、<br />
間違いのないように心して、告げた。<br />
「でも、私はラウラから言われたことの意味が解らなくて…。<br />
どうして私たちは愛し合ってはいけないのか解らなくて…。<br />
もし、あなたがその意味をご存知なら教えて頂きたいのです」</p>
<br />
<p>アンナは由紀子に深々と頭を下げながら言った。<br />
「ラウラをお許しください…。孫はとても傷ついた<br />
四年前のことに拘っているのです…。<br />
ですから四年前の事件を話すことにより、<br />
あなたの疑問も解けると思いますが、事件の内容は、<br />
あなたを辛くさせるのではないかと…。でも、<br />
話さなければラウラが悪者になってしまいますし、<br />
あなたも納得できませんでしょうから…。<br />
困りました。どうしたらいいのか…」<br />
そう言ったあと、由紀子の手を強く握ったまましばらく<br />
思案していたアンナは、話すことを決意して由紀子の顔を見た。<br />
心配そうに見つめる由紀子に少しだけ笑い、静かに口を開いた。</p>
<br />
<p>「四年前、クリスと愛し合っていたお嬢さんが亡くなったの。<br />
彼女はラウラの親友だったのよ。ラウラが未だに彼女のことを<br />
忘れられないのは、寂しいだけではなく、悲しいだけではなく、<br />
亡くなり方が問題だったからなの…」<br />
話は始まったばかりだったけれど、アンナはここで大きな<br />
ため息をつき、テーブルの上の水をコップに注ぎ喉を潤した。<br />
由紀子もなぜか喉の渇きを覚えていたが、<br />
先が気になり動くことさえできなかった。</p>
<br />
<p>「彼女はエリザベッタって言いましてね、可愛いい方だった…。<br />
男性ばかりではなく女性にも人気があったそうです。<br />
そんな彼女を射止めたのがクリスだったのです。<br />
二人は人目をはばからずいつもデートをし、仲良く肩を並べて<br />
通りを歩いていました。その日も朝から二人はデートをして<br />
いたそうなのですが、喧嘩別れをしたんだそうです…。<br />
若いカップルならそんなことは日常茶飯事なのですが、<br />
エリザベッタはその夜、自動車事故で亡くなるという<br />
大変な事件が起きてしまったのです…。<br />
諍いの憤りが収まらないまま事故に…。<br />
ですから、クリスは苦しみました…。責任を感じて苦しみました…。<br />
その上、もしかして自殺したのではないのかと巷では噂が…。<br />
事情を知らない人は間接的にクリスが殺したんだという人もいまして…。<br />
ラウラも親友の死をどうしても受け入れられなくて…。<br />
というのもその人のお腹の中には赤ちゃんがいましたから、<br />
だからラウラは余計にクリスを許せなかったと思います。<br />
でも、真実はクリスとその相手の女性のみ知ることです。<br />
誰もとやかく言う権利はないのですよ。ラウラも同じです。<br />
私はクリスを信じているし、クリスはそんな子じゃないのよ。<br />
でも、クリスは誰にも言い訳一つしないで今日まで耐えています。<br />
立派だと思いませんか？私はそんなクリスを心より信じ、愛しています。<br />
ただ、ラウラは親友以外の人をクリスが愛することを嫌がるのです。<br />
あまりにも彼女が可哀相といってね。<br />
でも、私は彼女も彼を愛しているのかも知れないと思っています。<br />
ですからラウラのことが今はとても心配ですが、<br />
彼女はもう子供ではありませんから…。<br />
あなたには申し訳ないと思いますが、少しの間我慢してください。<br />
ラウラが自分の愚かさに気が付くまでの間…」</p>
<br />
<p>アンナは由紀子に涙を流しながら最後に孫の幸せを願う祖母の姿を見せた…。<br />
孫を思う優しさに包まれたアンナの姿は神々しく輝いて見えた。<br />
そして、アンナの慈悲に満ちた世界の中に、四年前から苦しみ続けている<br />
クリスの姿を垣間見ることができた由紀子は、<br />
明日彼に会ったら何と言うべきなのか、何と言えばいいのか、<br />
苦しみを分かち合えることができないのか、懸命に考えはじめた…。<br />
そんな由紀子をアンナは優しく抱きしめて言った。<br />
「あなたの出現でクリスもラウラも救われればいいのですが…」</p>
<br />
<p>★第16章に続く★</p>
<p><br />
<font size="2"><strong><font color="#990000">【あなたが生きた街】</font></strong><font color="#006633">市川昭子著作</font>が文芸社より</font><font size="2">出版。</font></p>
<p><font size="2">皆様の応援の賜物と存じます。</font></p>
<p><font size="2">ありがとうございました。</font></p>
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 </p>
<br />
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</font></font>
]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/aiirari/entry-10487222276.html</link>  
      <pubDate>Sun, 21 Mar 2010 06:40:39 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>【愛の残影】■第14章■ 風の中</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第14章■ 風の中</p>
<br />
<p>由紀子はクリスに案内されて、暮れ行くトスカーナの高原に立った。<br />
そして、高原の冷たい風の中に、今日までの自分をそっと預けた。<br />
明日からの新しい自分を見つけるためにも、<br />
今日までの佐藤由紀子をどこかに<br />
預けなければいけないと思っていたから…。<br />
今日までの自分を捨てることはできないが、<br />
異郷の地で再出発を覚悟した由紀子は、<br />
同時に一人の異国の人を愛する覚悟もしたから…。<br />
だから今日までの自分をどこかに預け、今を生きるために<br />
明日からの自分にすべてを賭けようと決心をする必要があった。<br />
だから、今までの自分をそっと風の中に預けた…。</p>
<br />
<p>クリスは寒そうにしている傍らの由紀子を抱きしめた。<br />
「僕は三日前には君の顔も声もなにも知らなかったんだね。<br />
でも、今は由紀子の顔も声も身体もなにもかも知り尽くして<br />
いるようなそんな気分になっている。実に心地いい気分なんだ。<br />
だから明日から僕は今までとは違った一日があるような<br />
気がしてならない…。もちろん、素晴らしい一日があるような<br />
そんな気がしている」<br />
自分も今までの生活とは異なるだろうと予測して、<br />
ここに一時今までの自分を預けようと思ったばかりである。<br />
自分が考えていることと同じような思いでいるクリスに、<br />
由紀子はうれしく、お互いに不可欠な存在になって<br />
いることを知った。<br />
そして、旧市街の東端にあるプチホテルに一夜の宿を決めた由紀子は、<br />
ホテルに送ってくれたクリスの手から、別れ際に一枚の写真を預かった。<br />
「これは僕の写真。今夜時間があったらマリーノの肖像写真と並べて見てほしい。<br />
本人が言うのも変だけれど、本当に似ているんだよね、彼と僕って。<br />
でも、顔形が同じでも考え方は異なるから、よく見ていると彼と僕とは<br />
まるっきり別人だって判ると思う。僕自身はマリーノに<br />
似ていると言われても、少しも嫌ではないし、逆にうれしいけれど、<br />
マリーノを愛している君に、僕が彼に似ているからという理由で<br />
思われても少しも喜べないからね」<br />
笑いながら冗談とも本気とも取れる言葉を残して帰っていった。</p>
<br />
<p>その晩、由紀子はベッドの中でクリスから渡された写真を見たが、<br />
実物よりもはるかにマリーノに似ている写真であったし、<br />
これ以上眺めていると、ますます頭が混乱しかねないと思い、<br />
早々に作品集の本の間に写真を収めた。<br />
クリスの言う通りマリーノとは別人であり、クリスという<br />
今に生きる青年であることは間違いないのだから、<br />
どんなに相似していても、見間違うほど瓜二つでも、<br />
こだわらず、誰彼に似ていることも気にせず彼に接しようと思った。</p>
<br />
<p>翌朝、午前九時に約束どおりラウラのところを尋ねた。<br />
ラウラも祖母のアンナも一階の八百屋の店先で待っていてくれた。<br />
そればかりではなく、三件両隣りの隣人なのであろうか、<br />
数人の壮年男女も由紀子の来るのを待ち受けているようだった。<br />
ラウラは由紀子にハグをして挨拶を終えた後、彼らを紹介した。<br />
「こんなに多くの出迎えで驚いたでしょう？ごめんなさいね。<br />
昨日、由紀子さんの帰るところを叔父が見てしまって、<br />
もう大変。あなたは誰なのか、どうしてここに来たのか、<br />
なぜこの町に住むのかとか。だから少しだけ状況を話したらこの始末。<br />
総勢十人の出迎えになってしまったの」<br />
そう言ってラウラの後ろに立っている隣人たちを振り返った。<br />
そして、由紀子がよろしくお願いしますと、頭を下げると<br />
「この人はしつっこく聞いてきた三軒先に住む叔父のルディ、<br />
この人はその奥さんのカルラ、その隣の綺麗なおばあちゃんは<br />
祖母の友人のリディア、リディアの夫のアルディで…。<br />
もうこの辺で止めよう。由紀子は一度には覚えられないだろうし、<br />
明日からここの住人になるのだから、順に覚えてゆけばいいわ。<br />
みんなもそれでいいわね。とにかく、今日から彼女は私たちの<br />
家族としてここで、暮らしてゆきますから、よろしく！！」<br />
ラウラは周囲を囲んだ隣人たちにそう言いながら、<br />
由紀子のスーツケースを軽々と持って二階へ上がった。</p>
<br />
<p>「由紀子の部屋は私の部屋の隣。なにかあったら声を掛けて。遠慮しないでね」<br />
その他、トイレ、バスルーム、キッチンなど案内した後、<br />
一緒に来てと言って三階から細い階段を上がって屋上に案内した。<br />
屋上には物干し台の他、パラソルが置かれた小さなテラスがあった。<br />
「テラスは自由に使ってね。ここからの眺望はクリスのお気に入りなの。<br />
なかでもトスカーナ平野に沈む夕日が楽しめる夕刻時の景観は、<br />
クリスだけではなく、誰だって感激するわ。あなたも楽しんで。<br />
ただ夜は冷えるから厚着しないといけないわね」<br />
そう言ったラウラは、由紀子にも勧めてしばらく、<br />
平野の景観を楽しんでいたが、突然、隣に立つ由紀子の肩を抱き、<br />
顔を覗くようにしてひとつ聞いてもいい？と断って口を開いた。</p>
<br />
<p>「あなたとクリスは友達だけの関係？もしかして<br />
愛し合っているの？もし図星だったら一言忠告して<br />
おきたいことがあるの。お節介かもしれないけれど…。<br />
昨日あなたたちと会ってからずっと気になっていてね…」<br />
由紀子はラウラの忠告がどんなことかは判らないが、<br />
その表情からは、決して良い話でないことが伺えた。</p>
<br />
<p>由紀子は胸騒ぎを覚えながら、ラウラの次の言葉を待ったが、<br />
彼女はそれ以上は口を開くことがなく、まずは自分の質問に<br />
答えなさいと言わんばかりに由紀子の顔をじっと見つめていた。<br />
その顔は正に夜叉だった…。相手の弱みを探るような鋭い目つきは、<br />
蛇に睨まれた蛙のごとく、獲物を決して逃さない自信にあふれていた。</p>
<br />
<p>由紀子はラウラのそれまでとはあまりにも違った豹変振りに、<br />
恐れをなして足が震えてきたが、彼女から逃げたくはなかったから、<br />
踏ん張れるだけ踏ん張って時間を稼いだ。<br />
そして、いつもの自分を取り戻す努力を始めた。<br />
辛いとき、悲しいとき、混乱したとき、自分を見失いそうなとき、<br />
どうしたらいいのか、幼い頃から父親は由紀子に教えていた。</p>
<br />
<p>「混乱しても自分はいつもと同じ世界に生きているんだよ。<br />
悲しみに暮れているときもいつもと同じ時間の中にいるんだよ。<br />
辛くて仕方なくなっても今生きているからだ。今を乗り切らなくて、<br />
どうして明日があるんだ？今を生きなければ明日はやってこないんだ。<br />
だから、今のすべてを受け入れて、次に生きる準備をしなくてはいけない。<br />
結果がどうであれ、自分を見失わないためにはどんな場合に遭遇しても、<br />
いつも自分を忘れず、自分に正直に生きなければならない」</p>
<br />
<p>由紀子は今を誤魔化したら明日も明後日も真実を言えなくなると<br />
思ったから、そして、この人に嘘をつき、今の自分をごまかすのは<br />
自分への屈辱でしかないと思ったから…。<br />
だから、ラウラに自分はクリスを愛し、彼も私を愛していると<br />
言おうと決した。決心をしたから誰も恐くなくなって幸せだった…。</p>
<br />
<p>★第15章に続く★<br />
</p>
<p><font size="2"><strong><font color="#990000">【あなたが生きた街】</font></strong><font color="#006633">市川昭子著作</font>が文芸社より</font><font size="2">出版。</font></p>
<p><font size="2">皆様の応援の賜物と存じます。</font></p>
<p><font size="2">ありがとうございました。</font></p>
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 </p>
<br />
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]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/aiirari/entry-10486343741.html</link>  
      <pubDate>Sat, 20 Mar 2010 06:00:42 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>【愛の残影】■第13章■ 由紀子の選択</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第13章■ 由紀子の選択</p>
<br />
<p>今夜は無理であったが、アンナが由紀子をことのほか<br />
気に入ってくれたことで、下宿先は簡単に決まり、<br />
明日から由紀子はクリスのお気に入りの丘の傍らで、<br />
ラウラたちと共に暮らすことになった。<br />
日本を発つまでまさかピストイアに居住するとは<br />
思ってもみなかったことであった。そして、<br />
ラウラたちに出会うとも予想だにしなかったから、<br />
今、こうして見知らぬ人たちと居を共にすることが<br />
決まったこと事態、夢の中の出来事のように思っていた。</p>
<br />
<p>「人間の営みの中で予想できないことが多々あるが、<br />
その中でも“今”が偶然にも奇跡を呼び起こすことがある。<br />
だから今を常に意識し、大切に思わなければならない。<br />
そして、今に関わった人の思いを受け入れて、<br />
その上で自分を見つめなければいけない。<br />
過去になったら全てが終わってしまう。<br />
未来に何かを託すにしても今がなければ託せない。<br />
自分の過去も未来も今があるからこそだ。<br />
今を大切に生きれば必ずより良い未来があるから」</p>
<br />
<p>由紀子は日本を発つ前に父親から言われた言葉を繰り返し思い出していた。<br />
このピストイアにあってラウラ親子との対面はクリスあってのこと。<br />
自分の愛する芸術家の生誕地に、こうして住むことになったのも、<br />
クリスと出逢ったからこそ。今を大切に生きることが、<br />
これほどまでに未来に繋がるとは、思ってもみなかった…。<br />
そんな思いに駆られていたとき、由紀子は坂道を登りながら<br />
言ったクリスの言葉が脳裏を蘇った。</p>
<p>「今が大切なんだ。今を逃すと今が今でなくなるから。<br />
あるべきものが今を逃すと無になってしまうから。<br />
それは空し過ぎる…。だから今を大切にしないといけない」</p>
<br />
<p>クリスはマリーノ・マリーニの化身かもしれないと思ったときも<br />
あったが、今は由紀子の父親とまったく同じ考えの中にいる<br />
クリスに驚いた。偶然過ぎる偶然が重なったことに、<br />
由紀子はますますクリストとの出逢いは、神のみぞ知っていた<br />
赤い糸で結ばれていたのではないのかと思えた…。<br />
フィレンツェから始まったクリスとの時間の共有の中で、<br />
由紀子はいつしか彼と共に生きる未来を夢見ていた。<br />
それは父親にしてもマリーノにしてもあ由紀子がこの世で、<br />
もっとも愛する人の一人であり、もっとも尊敬する人の<br />
一人であることが、由紀子の未来を明るくし、幸せにしていた。</p>
<br />
<p>ラウラの家を出た後、クリスに頼んで一夜の宿を探してもらった由紀子は、<br />
駅に預けたスーツケースを取りに行くのだと言って、クリスに別れを告げた。<br />
「今日は色々ありがとう。まさかこの町に数カ月とはいえ、<br />
滞在できるとは思ってもみなかった。あなたのお陰で<br />
今私は最高に幸せなの。本当にありがとう。<br />
明日、十時に私はラウラのところに行きます」</p>
<br />
<p>クリスは荷物を一緒に取りに行こうと言って聞かず、<br />
結局、彼の運転する車で駅まで行き、駅の一時預けで<br />
スーツケースを引き取った二人は、しばらく<br />
トスカーナ高原をドライブすることにした。</p>
<p>彼の運転する車の座席に座った由紀子は、<br />
今日一日の目まぐるしい時の流れに疲れを思った。<br />
と同時に傍らで運転するクリスの笑顔に愛おしさを感じる<br />
自分に胸を痛めていた…。そして、<br />
圭吾にはなんと説明しようかとも悩んでいた。<br />
彼からは愛の告白を受けたことはなかったが、<br />
暗黙の内に彼の自分への想いを受け入れていた由紀子であったから。</p>
<br />
<p>クリスは夕闇が迫る高原の美しさ由紀子に見せる事ができて、<br />
幸せだと言いながら、明日から君はどうする？と聞いた。<br />
このピストイアで君は何をして二ヶ月間を過すのか、<br />
君が良ければ一緒に考えたい、と言って由紀子に語りかけた。<br />
まだ、何も決めていなかったから、クリスには笑いでごまかして、<br />
答えなかったが、由紀子は地平線に沈み行く大きな太陽を<br />
目の前にしながら、明日からのことよりも、圭吾と両親にこの経緯を<br />
どう説明しようかと思案していた。彼らに理解してもらえるような<br />
名文が書けるのなら、明日、メールで知らせたいと思っているが、<br />
そんな芸当ができるはずはなく、だからといってこのままで黙って<br />
いるわけにもゆかず、悩んでいた。<br />
ただ、父親には正直にクリスとの出逢いを話したかったし、<br />
このピストイアで今を大切にして生きてゆくことを約束したかった。</p>
<br />
<p>★第14章に続く★</p>
<br />
<p><font size="2"><strong><font color="#990000">【あなたが生きた街】</font></strong><font color="#006633">市川昭子著作</font>が文芸社より</font><font size="2">出版。</font></p>
<p><font size="2">皆様の応援の賜物と存じます。</font></p>
<p><font size="2">ありがとうございました。</font></p>
<p><font size="2"><br />
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 </p>
<br />
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      <pubDate>Fri, 19 Mar 2010 06:37:13 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>【愛の残影】■第12章■ 出逢い</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第12章■ 出逢い</p>
<br />
<p>ラウラの家は三階建ての石造りの建造物の一角にあった。<br />
間口の狭い中世の建造物は、奥行きが長いことを特徴としているが、<br />
ここも同様で、一階は三メートルほどの間口を目いっぱい使った<br />
野菜や果物を売る小さな八百屋の店舗となっていて、<br />
二階と三階がラウラ・バッシ家の住居となっていた。<br />
クリスは八百屋の店主に親しげに挨拶をした後、<br />
由紀子を手招いて、二階へ行こうと誘った。<br />
そして、一旦店の外に出て、店の脇にある<br />
細い急な階段を上って行こうとすると、<br />
「チャオ、クリス！遅かったわね、待っていたのよ」<br />
階段の上からラウラと思われる女性が呼び掛けてきた。</p>
<br />
<p>由紀子は階段の途中であったが頭を下げて彼女に挨拶をした。<br />
急な階段だったから上りきるのに、少し時間が掛かったが、<br />
ラウラは二人を踊り場で待っていてくれた。そして、<br />
玄関から続くリビングに二人は案内された。<br />
リビングはさほど広くはないが、大きな窓が印象的で、<br />
清潔感にあふれ、居心地の良さを感じさせた。</p>
<br />
<p>赤いワンピースに白い大きなショールを肩にかけたラウラは、<br />
美しく艶やかであったし、メリハリの利いた動きにも派手さが伴い、<br />
大人の女性としての風格も持ち合わせていた。<br />
由紀子は彼女を見たくても眩しくて目を逸らさずにはいられなかった。<br />
そんな由紀子に優しい笑いを向けたラウラは、由紀子の座るソファの<br />
向かい側にクリスと並んで座り、クリスに紹介をと催促をした。<br />
クリスはラウラの用意したカフェを飲んでいたが、<br />
催促されると由紀子を見て笑った。</p>
<br />
<p>「どうやらラウラは君に興味津々らしい。由紀子もラウラに興味津々？」<br />
由紀子は自分の名前を突然、呼び捨てにして話すクリスに驚いた。<br />
だからクリスの顔に視線を移すと、隣に座っているラウラも驚いた風で、<br />
クリスの顔を見つめていた。しかし、当の本人は怪訝そうに見つめる<br />
二人の視線には一向に構わない振りで、ラウラに話し始めた。</p>
<p>「まず由紀子にラウラを紹介しようね。彼女はラウラ・パッシ。<br />
僕と同じでこの町で生まれ育った。そして、僕の高校時代の同級生。<br />
おばあちゃんのアンナと二人暮しだ。<br />
ラウラは英語が得意だから由紀子は困らないと思う」<br />
そう言って今度は、クリスは隣に座るラウラに向きを変えた。</p>
<br />
<p>「次は由紀子の紹介をするね。彼女は佐藤由紀子。年は二十七歳。<br />
僕たちよりひとつ年上になると思うけれど、外見上は違うね。<br />
それはともかく、この二三日前にイタリアに来たばかりだ。<br />
でも、僕たちはずっと前からの知り合いで、昨日、<br />
フィレンツェで落ち合ったたんだ。そうだね、由紀子？<br />
そして、昨日、彼女のスケジュールを聞いて驚いた。<br />
僕はてっきり短期の観光旅行と思っていたからね。<br />
それが二三ヶ月このイタリアに滞在するつもりだって。<br />
しかも、下宿先を決めていないって言うし…。<br />
それでラウ僕はラウラのところに置いてもらえればと思って、<br />
さっき、バールから電話をしたんだ。まずはラウラが家にいて<br />
くれなければ、この話は前に進まないと思って、電話を掛けた。<br />
急な話で申し訳ないと思っているけれど、<br />
ここで下宿させてもらえればうれしい。もちろん、<br />
由紀子については何も問題のないことは僕が保証するよ」</p>
<br />
<p>由紀子は驚いた。そして、自分のためにクリスはいつこんな<br />
作り話を考えたのだろうかと、感心しながら感謝もした。<br />
もし、事前にこのでっち上げた話の内容を知っていたのなら、<br />
今、こうして素知らぬ顔をしてこの部屋に座ってはいられなかった<br />
だろうし、昨日初めて会った人だとラウラに知れれば、<br />
どこの馬の骨か判らない自分を受け入れることはないだろうと<br />
思ってもいた。クリスを裏切らないためにも、<br />
今、自分のやるべきことをやらなければと、<br />
由紀子は兜の緒を締めるつもりで、開き直った。</p>
<br />
<p>「佐藤由紀子です。突然、こんなお願いをして申し訳ないと思っています。<br />
でも、もしよろしければ私にお部屋をお貸し頂けませんか？<br />
このピストイアで少しの時間でも住んでみたいのです…」<br />
ラウラは電話では日本人の女性を連れてゆくから、<br />
少しの間面倒を見てもらえないかと、聞いてはいたものの、<br />
まさか数ヶ月も預かるとは予想をしていなかった。<br />
また、クリスの由紀子への思いを疑いながら、<br />
この申し出に困惑の色を浮かべていた。<br />
しかし、クリスの哀願するような顔を見た彼女は、<br />
「解ったけれども、でも、急な話で私一人では<br />
決められない…。急ぐの？もしかして今日からなの？<br />
ちょっと待って。おばあちゃんに話して来るから。<br />
どの道、彼女の了解を得なければ下宿させるわけにはゆかないから」<br />
そう言って席を立った。</p>
<br />
<p>ラウラが去った後、二人は同時に口を開いたが、クリスが由紀子の<br />
口を押さえて、僕が先にと言って笑いながら話しだした。<br />
「いつ彼女に連絡したのかというと、さっきバールの店で簡単に<br />
これから会わせたい人がいるからとだけ電話で伝えた。<br />
でも、細かいことは言わなかった。<br />
頼み事だから会って話をした方が話がこじれないからね。<br />
でも、君との出会いなどの嘘は、ここに来て思いついた。<br />
だから、その嘘に君がどういう反応をするか賭けだった。<br />
もし、僕の嘘がラウラにばれたら、、由紀子の下宿の話は<br />
前に進まないし、僕とラウラとの友情も<br />
これっきりになる恐れもあったから、少し心配だった」</p>
<br />
<p>ラウラが去ってから十分経過したのだろうか、<br />
彼女は思ったより早く祖母のアンナと共に戻ってきた。<br />
ドアが開いていたリビングの入り口に立った白髪のアンナは、<br />
ラウラと同じように背が高く、上品な顔立ちだった。<br />
そして、にこやかに笑うラウラとは対照的なもの静かな<br />
動きで由紀子の傍に来ると、まじまじと由紀子の顔を見た。</p>
<br />
<p>「なんて美しいんでしょう…。なんて優しい目をしているんでしょう。<br />
まるでこの世の人ではないような透き通った美しさ…。<br />
あなたがこの家に来てくださるんですね」<br />
そう言ってアンナは由紀子を大きな手の中に包み込んだ。</p>
<br />
<p>アンナの大きな包容力、ラウラの人を疑うことのない優しい心、<br />
そして、クリスの自分への真っ直ぐな愛情、すべてが自分一人に<br />
向けて注がれている…。由紀子は改めてこのピストイアに招いてくれた<br />
クリスティアーノに感謝し、この町だけではなく、ここに住む人々の<br />
温もりの中で、彼らと出逢った幸せを感じていた。</p>
<br />
<p>★第13章に続く★</p>
<br />
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<p><font size="2">皆様の応援の賜物と存じます。</font></p>
<p><font size="2">ありがとうございました。</font></p>
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<p><br />
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      <link>http://ameblo.jp/aiirari/entry-10484682382.html</link>  
      <pubDate>Thu, 18 Mar 2010 06:12:50 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>【愛の残影】■第11章■ クリスの痛み</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第11章■ クリスの痛み</p>
<br />
<p>クリスは足を引きずりながら石畳の坂道を一気に<br />
駆け上がろうとしたから、なぜそんなに急ぐの？と問いかけた。<br />
クリスはその問いかけに歩を緩めないで答えた。<br />
「今が大切なんだ。今を逃すと今が今でなくなるから。<br />
あるべきものが今を逃すと無になってしまうから。<br />
それは空し過ぎる…。だから今を大切にしないといけない」<br />
彼は今が大切なんだとしか答えなかったが、<br />
由紀子もひたすら前に進むクリスにつられるようにして先を急いでいた。<br />
そして、漠然としながらも「今が大切」という彼の言葉に<br />
一抹の寂しさを感じていた…。</p>
<br />
<p>しかし、丘の頂上に立ってトスカーナ平野を眼下にしたとき、<br />
彼が先を急いだ訳を納得した。<br />
今が大切だと言った言葉に納得した…。<br />
なぜなら由紀子の眼下には午前の柔らかな陽光を受けて、<br />
誇らしげに光り輝くトスカーナ平野が横たわっていたから。<br />
それはまるで一葉の絵葉書のように美しさを誇示し、<br />
一糸乱れぬ秀麗な景観だったから…。<br />
この景観は、午前中の清新で澄み渡った空の下にしか<br />
見られないであろうと思えたから、<br />
由紀子はクリスの今が大切という言葉に改めて感動した…。<br />
そして、背の高いクリスを見上げて<br />
「ここなのね？」<br />
と言うと彼はうれしそうに由紀子にうなずいた。<br />
うなずきながら由紀子をハグした。そして、<br />
由紀子を自分の前に立たせて背中越しに抱きしめながら、<br />
誰もいない丘の上に立った。</p>
<br />
<p>「ここが僕のイマジネーションを大きく育ててくれる最高の場所。<br />
昨日の夜、眠れなかったからここで君のことを一晩中考えていた。<br />
とても寒かったけれどね。でも、僕はいつも<br />
悩み事や苦しみがあったらここで考えたり苦しんだりする…。<br />
うれしいこともここで考えたりもする。<br />
ここに立つと、というよりここで平野の景観を眺めていると、<br />
いつだってマイナス思考がプラス思考に変わってくるんだ。<br />
ここはもしかしてプラス思考のスポットなのかもしれない。<br />
君も今度なにかあったとき、ここへ来て立ったらいいよ。<br />
ここにはきっと何かがあると思うから。答えが見つかるから」<br />
そう言ってしばらく平野を眺めていたが、<br />
由紀子を抱きしめていた手を緩め、横に並んだ。<br />
そして、今度は真面目な顔で言った。</p>
<br />
<p>「でも、ここは実は寄り道で、目的地はさっき言った<br />
友達のラウラの家に行こうと思っている。このすぐ近くなんだ。<br />
ラウラは彼女の祖母と二人で暮らしているんだけれど、<br />
いつだったか、アメリカ人を数ヶ月下宿させていたから、<br />
もしかして由紀子も預かってくれるのではないかと思ったから。<br />
突然だから、今日からというわけにはゆかないかもしれないが、<br />
とても気さくで優しい二人だから、きっと気に入るよ」</p>
<br />
<p>クリスは再び由紀子の手を取って歩きはじめた。<br />
丘を下って十分ほど歩くと今までまったく視野に入って<br />
いなかった城壁が突如として由紀子の前に立ちはだかった。<br />
中世の置き土産である城壁はピストイアに来て何度も目にしていたが、<br />
こんな形で目の前に現れるとは、思いもしなかったから、<br />
思わず後ずさりするほど驚くと、クリスは笑った。<br />
「ピストイアは城壁の町で知られているから、あちこちに城壁がある。<br />
城壁は町のトレードマークでもあるけれど、<br />
住んでいる僕たちにとっては、いつも囲まれているような<br />
閉塞感を感じて、耐えられないときもある。<br />
そんな時、町の人々は城壁の外でキャンプをしたり、<br />
僕のように絵を描いたり、本を読んだりする。<br />
それと町の中にはそのほか歴史の遺物があるよね。<br />
それだって時には重荷になることがある…。特に子供たちにはね。<br />
子供たちにはどれもこれも遊び道具になるものばかりだけれど、<br />
でも、大切な遺物。触ることさえできないものもある…。<br />
その中で唯一ＯＫが出たのはマリーノ・マリーニの彫像さ。<br />
レプリカだから、自由に触れたし、遊ぶことができた。<br />
だから僕も幼いころから彼の作品と向き合って生きてきた。<br />
…君は僕の足に気が付いていたよね。<br />
この足は僕が三歳のときに、大怪我をしたときの後遺症なんだ。<br />
母にせがんでマリーノの彫像の馬に乗った途端、<br />
転げ落ちて大怪我をした。大変な手術の結果、結局右足が…。<br />
でも、大丈夫、君が感じているように少しだけ短くなっただけだから。<br />
でも、僕は悪夢とは思っていない。悲劇だったとも思っていないんだ。<br />
彼と一生こんな形で結ばれた、とむしろ自慢にしている。<br />
マリーノの傑作のひとつである作品にまたがって怪我をしたんだ。<br />
彼と一心同体になったって、思えるようになった。<br />
そう思えるようになったのも、この丘に立ったからだった。<br />
プラス思考の中で考えたら、そう思えたしそう信じられた…」</p>
<br />
<p>クリスは今までになく真剣でことさら青く澄んだ瞳を輝かせて、<br />
由紀子に自分の生まれ育った町と自分の足について話した。<br />
彼の右足の怪我は、やはりマリーノ・マリーニに関係していた…。<br />
そのとき、由紀子には爽やかに晴れ渡ったトスカーナの空に、<br />
ピストイアに生きるクリスと偉大なる芸術家が重なって見えていた…。<br />
そして、この丘はもしかしてパワースポットなのかも<br />
しれないと由紀子は思った。自分の意思をしっかりと持てば、<br />
願いや思いが叶う場所なのかもしれないと…。</p>
<br />
<p>★第12章に続く★<br />
<br />
<font size="2"><strong><font color="#990000">【あなたが生きた街】</font></strong><font color="#006633">市川昭子著作</font>が文芸社より</font><font size="2">出版。</font></p>
<p><font size="2">皆様の応援の賜物と存じます。</font></p>
<p><font size="2">ありがとうございました。</font></p>
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      <link>http://ameblo.jp/aiirari/entry-10483849172.html</link>  
      <pubDate>Wed, 17 Mar 2010 06:31:58 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>【愛の残影】■第10章■ 生きる場所</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第10章■ 生きる場所</p>
<br />
<p>クリスは由紀子の無言の言葉にうれしかったのか、<br />
明るい顔で軽快な足取りで歩き始めた。<br />
由紀子の手をしっかりと握って歩き始めた。<br />
すっかりイタリア語のみでの会話であったが、<br />
クリスの口からほとばしるようにして出てくる言葉に<br />
由紀子は酔いしれながら、時折、自分もイタリア語で<br />
答えたりして、クリスの話術に打ち解けていた。</p>
<br />
<p>気がつくと大聖堂広場から小さな公園に出ていた。<br />
公園を取り巻くようにして、露天が立ち並び、<br />
町の人々で賑わうメルカート（朝市）が開かれているそこは、<br />
自分のいつもの散歩道のひとつだとクリスは由紀子に言った。<br />
色とりどりの野菜や果物が所狭しと並べられた露天では、<br />
店主と買い物客の軽やかでストレートな会話が交わされ、<br />
井戸端会議にも似たその光景は、お互いをいたわり合って<br />
いるようでもあった。そして、彼らのやり取りの渦の中に<br />
身を置いていた由紀子は、彼らの交わす温かな会話に<br />
心が和んでゆく自分に気がついた…。<br />
と同時にこの小さな町に吹く風に心地良さを感じ始めていた…。</p>
<br />
<p>公園前に建つバールに入ったクリスは、二人分のカフェを<br />
持って公園が見渡せる店先のテラスに座った。<br />
未だメルカートの喧騒の中にいた由紀子は、<br />
カフェを飲みながら、クリスに話し始めた。<br />
「私の名前は佐藤由紀子。二十七歳。<br />
あなたよりひとつ年上になると思います。<br />
三日前に東京から初めてイタリアに来ました…。<br />
学生時代から、いいえ、もっとずっと前から憧れていた国、<br />
イタリアへようやく来ることができました…。<br />
予定はまったく組まず足の向くまま気の向くままに<br />
しばらくあなたの国に滞在しようと思っていますが…。<br />
でも、今日、夕刻にはペルージャへ行くつもりです。<br />
ペルージャには日本人が経営するアパートがあるので、<br />
そこを借りようと思って。二ヶ月間くらいを予定しています。<br />
そこは日本の友人の紹介なので、安心できるのです…。<br />
職業は今は無職。東京ではグラフィック・デザイナーの卵として<br />
働いていましたが、ある日突然、先が見えなくなってしまって、<br />
会社を退社しました。それを機会にイタリアへ…」</p>
<br />
<p>そう言ってから由紀子は躊躇ったが、勇気を出して付け加えた。<br />
「今日、あなたに再び会えたことはとてもうれしかった…。<br />
あなたと同じように昨日逢ったときから奇妙な気持ちになって<br />
いましたから、だからピストイアへ行けばきっと何かが判ると<br />
信じてきたの。それが何なのか判らなかったけれど…。<br />
でも、悶々としたままで先に進むのが嫌だったから、<br />
あなたに誘われるままに来てしまいました。<br />
でも、あなたとこうして会えたから、そして、マリーノにも<br />
会えたから、本当に来て良かったと思っています」</p>
<br />
<p>由紀子の言葉が終わるか終わらない内に、<br />
クリスは突然立ち上がり、僕について来てと言って<br />
由紀子の手を取って元来た道を戻り始めた。<br />
行く道すがら、彼は由紀子に言った。<br />
「もし、僕を信じてくれるなら、僕はこれから由紀子さんの<br />
宿を紹介したい。僕の友人の家だけれど。もちろん、一晩だけの<br />
宿ということことではない。今の話だとペルージャで<br />
なければいけないという理由はないように思えたから、<br />
君はこのピストイアにいるべきだと僕は思った。<br />
マリーノ・マリーニの生きた町でしばらく滞在すれば、<br />
きっと自分の世界が見つかると思ってしまったから…」</p>
<br />
<p>クリスは自分の欠点だと言った独りよがりの考えの中で、<br />
由紀子を心配していたが、由紀子にとって今はそれがうれしかったし、<br />
考えてもいなかったことだけれど、もし、この町に自分のいる場所を<br />
確保できるのなら、どんなにか幸せだろうと思った。<br />
この町の片隅でいいからクリスの住む場所を共有して<br />
生きてみたいと思い始めていた…。<br />
自分が初めて胸をときめかした青い光の中のシルエットの青年が<br />
マリーノ・マリーニと同じ生まれ育ったこの町にいたから、<br />
由紀子は恋をして今、彼と同じ町に住むことに胸を躍らせていた。<br />
だから、息せき切って歩くクリスの姿を<br />
眩しそうに見つめながら、懸命に歩いていた。</p>
<br />
<p>公園から十分ほど歩いただろうか、由紀子は石畳の坂道を登りながら、<br />
この先にはクリスが描くトスカーナの丘に沈みゆく太陽を<br />
目の辺りにできる場所があると、なぜか予感していた。<br />
それはこの町で始まる新しい世界の出発点が<br />
丘の夕景であるような気がしたから…。<br />
そして、この町に居を定めたなら、自分はクリスと共にこの丘で<br />
ファンタジッな夕景を毎日、見ることになると思っていた…。<br />
そんな予感に酔いしれながら、由紀子はクリスの手をしっかりと<br />
握り返した…。そのときクリスは急に右足を引きずり始めた…。</p>
<br />
<p>★第11章に続く★<br />
<br />
<font size="2"><strong><font color="#990000">【あなたが生きた街】</font></strong><font color="#006633">市川昭子著作</font>が文芸社より</font><font size="2">出版。</font></p>
<p><font size="2">皆様の応援の賜物と存じます。</font></p>
<p><font size="2">ありがとうございました。</font></p>
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 </p>
<br />
</font></font><font color="#006600"><font color="#000000"><br />
</font></font>
]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/aiirari/entry-10482997876.html</link>  
      <pubDate>Tue, 16 Mar 2010 06:55:19 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>【愛の残影】■第9章■ 赤い糸</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第9章■ 赤い糸</p>
<br />
<p>クリスは約束通り十分ほどして由紀子の前に現れた。<br />
しかし、写真集を握りしめたまま顔面蒼白になっている<br />
由紀子を見て驚き<br />
「どうかしたのですか？大丈夫ですか？」<br />
と何度も何度も由紀子の顔をのぞきながら繰り返した。<br />
何も答えない相手に思い余ったクリスは、隣に腰をかけると、<br />
由紀子の膝の上にある作品集に気がついた。<br />
本は扉を開いたままで、膝の上にあった。<br />
それを見たクリスは、何かに思い当たったように少しだけ微笑み、<br />
膝にあった本を閉じて由紀子を優しく抱きしめた。</p>
<br />
<p>抱きしめたままクリスは由紀子に言った。<br />
「彼の写真を見たからなのですね。君はマリーノ・マリーニの<br />
肖像写真を見たから驚いたのですね。<br />
僕の顔を知っている人なら大半の人がこの写真を見て<br />
驚くようです。君もそうでしたか。そうだったのですね」<br />
と今度は大きな声で笑いだした。愉快そうに笑って由紀子を腕の中から<br />
離し、泣き出しそうな顔を見てまた笑い転げた。<br />
由紀子はマリーノ・マリーニの笑い顔は知らなかったが、<br />
目の前にいるクリスティアーノという男性が彼に乗り移って<br />
いるのではないのかと、瞬間だけであったが錯覚していた。</p>
<br />
<p>というのも作品集の扉を飾るマリーノ・マリーニの肖像写真は、<br />
クリスティアーノというこの青年にあまりにも相似していたから…。<br />
端正な顔立ちというばかりではなく、憂いに満ちたな顔立ちからは、<br />
人生の悲哀のすべてを経験したかのような哀しみが想像でき、<br />
その表情は見る者に悲しみを誘いながら<br />
心の奥底まで入り込んでくる…。<br />
それも昨日クリスと逢ったばかりに、由紀子の心の奥底に<br />
印象付けた彼に一晩中悩まされたことと相似し、<br />
細身でスマートな身体つきまで瓜二つだったから、<br />
由紀子は驚いたのだった…。<br />
そして、今、写真のマリーノと昨日の彼とは異なる<br />
明るい表情のクリスを目の前にしながら、<br />
現実と夢の中の出来事の境目が判らず困惑してしていた…。<br />
だから由紀子は、目の前で愉快そうに笑い転げる<br />
クリスを許せなかったし、自分を取り戻すのに、<br />
少しだけ時間が掛かっていた。</p>
<br />
<p>現実と虚構の世界の狭間を彷徨っていた由紀子は、<br />
冷静になって自分にこう問いかけていた。<br />
“私はマリーノ・マリーニの肖像写真を見たことがなかったと<br />
記憶していたが、もしかして、どこかで見ていたのかもしれない…。<br />
だから、フィレンツェでクリスと僅か数分の出会いであったにも<br />
関わらず、一晩中気になって眠れなかったのではなかろうか？<br />
マリーノ・マリーニの顔がクリスと重なっていたのかもしれない。<br />
彼との出逢いはマリーノによって赤い糸で既に結ばれていたのかも<br />
しれない…。だからマリーノは私をこのピストイアに呼び寄せた？<br />
クリスとの出逢いを現実化するために…。<br />
そんなことってあるのかな？もし、あるとしたら私とクリスは<br />
どんな結末を迎えるの？”</p>
<br />
<p>由紀子は非現実的な思考の中で、昨日から今日までの<br />
出来事を自分勝手な納得の中で整理し始めた。<br />
しかし、そう考えながらも、今が現実であり、<br />
自分の目の前にいるのはマリーノではなくクリスであることは<br />
承知していたし、虚構の世界でないことも知っていた。<br />
だからなおさらマリーノに相似するクリスが遠い人に<br />
思えて仕方なかった…。</p>
<br />
<p>クリスはしばらく由紀子の傍らでじっとしていたが、<br />
「君の頭の中の整理はついたようだね。お茶でも飲みましょう」<br />
由紀子の手を取ってベンチから立ったクリスは、<br />
広場を横切るようにして東に向かって歩きはじめた。<br />
後ろを歩いていた由紀子は、彼の右足を見ながら思い出していた。<br />
最初広場で見たとき、彼は右足を引きずるように歩いていたことを。<br />
しかし、今はその様子がまったく見えない…。<br />
どうしてなの？<br />
またもや自問自答を繰り返す由紀子にクリスは、<br />
「そういえば僕はあなたの仕事やイタリアに来た理由<br />
をまだ聞いていませんでしたね」<br />
その言葉で我に返った由紀子は、名前こそ言ったものの、<br />
自分のことはまだなにも告げてはいなかったことに気が付いた。<br />
今まで数時間もの間、自分はクリスだけに様々なことを言葉だけではなく、<br />
無言でも問いかけてきたような気がした。<br />
「…ごめんなさい。私は自分のことは何も話してはいませんでしたね」<br />
「謝ることはないよ。僕が強引だったから君はそう簡単には<br />
心を開けなかったと思うし、用心したのだと思う。<br />
だって何も知らない相手に好きだって告白する男だもの、<br />
信用する方が変だよね。でも、自分で言うのもなんだけれど、<br />
僕は君が恐れるような人間でないことを信じて欲しい。<br />
職場でも真面目な男で通っているから」</p>
<br />
<p>さっきと同じように少しだけ照れながら由紀子にそう言った。<br />
由紀子は彼の言葉が広場に吹く風に舞うようにして流れてゆくのを<br />
見ながら、その言葉に無言で答えた。<br />
“そうじゃないのよクリス。あなたを疑ってはいないの。<br />
あなたを信じたからこそ、フィレンツェからこうしてこの町に来たのよ。<br />
あなたに会えるかもしれないと思って…。<br />
違うわ、マリーノに会えるかもしれないと思って…。<br />
でも、あなたに逢えた…。とてもうれしかったの…。<br />
だから気にしないで。あなたを怖がってもいなし、<br />
不信な相手でもないの。もしかしてクリス、あなとはずっと昔から<br />
赤い糸で結ばれていたのかもしれないって思っているのよ…”</p>
<br />
<p>★第10章に続く★<br />
<br />
<font size="2"><strong><font color="#990000">【あなたが生きた街】</font></strong><font color="#006633">市川昭子著作</font>が文芸社より</font><font size="2">出版。</font></p>
<p><font size="2">皆様の応援の賜物と存じます。</font></p>
<p><font size="2">ありがとうございました。</font></p>
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      <link>http://ameblo.jp/aiirari/entry-10482202787.html</link>  
      <pubDate>Mon, 15 Mar 2010 06:34:45 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>【愛の残影】■第8章■ クリスのプレゼント</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第8章■ クリスのプレゼント</p>
<br />
<p>鐘の音の余韻が残る広場を二人は横切り、<br />
大聖堂の左手に建つ市庁舎に向かって歩いた。<br />
十時を過ぎたのにクリスの言うように<br />
町を訪れる人は少なく、人影はまばらだった。<br />
だから広場はまるで二人だけのためにあるかのように、<br />
青い光に包まれていた…。<br />
クリスは市庁舎の前に来ると後ろに歩く由紀子を振り返った。<br />
そして、中央扉の左側に掲げてある表示を指差した。<br />
表示にはマリーノ・マリーニ美術館と書かれている。</p>
<br />
<p>クリスはその表示の前で僕はここまで、<br />
と言ってそのまま市庁舎の奥に消えて行った。<br />
案内というのはここまでだったのかと、<br />
由紀子は当てが外れた気分になったが、すぐに美術館鑑賞には<br />
一人の方が気が楽でよかったのかもしれないと思いなおした。<br />
窓口でクリスからもらった入場券を差し出すと、<br />
中にいた女性の係員が半券とパンフレットを差し出して<br />
「館内の矢印に従って歩いてください」<br />
英語でただそれだけを案内して入り口に渡してあったロープを取った。<br />
由紀子はその所作で今日の入館者は自分が最初だと知った。<br />
だからといって緊張したわけではなかったが、<br />
ひんやりとした館内に足を踏み入れた瞬間、<br />
身体が固まったような気がした…。</p>
<br />
<p>館内にはマリーノ・マリーニの資料を中心に数々の遺品を含め、<br />
下絵デッサン、版画、ブロンズの習作などが展示されていた。<br />
今まで夢にまで見た彼の直筆や本物のデッサンを目の前にした<br />
由紀子の感激は、言葉には言い尽くせないほど大きく、<br />
また、見る物すべてが由紀子の心に深く焼き付いた。<br />
また、マリーノ・マリーニという作家の住む世界に少しでも<br />
近づくことができたという満足感が由紀子を幸せにしていた。<br />
そして、彼の代表作のひとつである身体を弓なりにした馬の<br />
ブロンズ像の習作の前に立ったとき、急に胸の動悸が激しくなった…。<br />
哀しみをたたえた馬の表情に感動したのであろう、<br />
動悸が治まらず思わず胸を押さえると同時にどこからか、<br />
クリスが分厚い1冊の本を手にして由紀子の前に現れた。<br />
そして、胸に当てた由紀子の手をそっと取って、優しくハグをした…。</p>
<br />
<p>「この習作は本物よりも僕にとっては、素晴らしいものだと<br />
思っています…。完成したものよりこの習作の方が、<br />
より大きな感動を受けたから…。もしかして、君も同じなんだね？<br />
僕はこのモチーフから彼の生き様を見ることができれば、<br />
幸せだと思うし、見ることが可能だと思っている。<br />
これは持論だけれど、どんな作家の習作も往々にして、<br />
まだ整理されていない感情をむき出しにしているものが多いと思う。<br />
だからこそ、習作からは飾らない作家の真の姿を見ることができる<br />
と信じているし、本番ではないという気軽さから、<br />
試してみたい手法の冒険をしてみたり、思い切った表現を<br />
してみたりするのではないかと思っている。<br />
僕自身、作品を描くとき、そんな感じで習作を描くからね…。<br />
だから、この作品はマリーノ・マリーニのもっとも表現したい感情の<br />
ひとつ“人間の悲哀”が強烈なタッチで描かれている気がする…」<br />
一気にそう話したクリスは、由紀子の顔を見ていくらなしか<br />
照れているようであった。我を忘れてむきになって喋ったことへの<br />
悔いと照れが、彼の優しさを現していた。</p>
<br />
<p>由紀子は実に的を射た習作の解釈だと感動し、<br />
クリスのマリーノ・マリーニへの熱い思いも知った。<br />
もちろん、彼の解釈は由紀子も同感であった。<br />
自分も大学で造形をやっていたから、作家の意図を履き違えるような<br />
ことはないと信じていたし、クリスの見方も解釈の仕方も<br />
一理あると共感していた。</p>
<br />
<p>クリスは思い出したように手に持っていた一冊の本を由紀子に差し出した。<br />
「これをあなたにプレゼントしようと思って、オフィスに取りに行っていました。<br />
彼の作品集です。履歴も出ています。ピストイアの記念と僕との思い出の<br />
ために持って帰ってほしいと思って…」<br />
黒表紙で飾られたマリーノ・マリーニの作品集であった。<br />
由紀子はのどから手が出るほど欲しかった…。<br />
中を見ていなくとも、表紙を飾る憂いに満ちた馬の像を<br />
見ただけでその本を抱きしめたいと思ったから、とにかくほしかった。</p>
<br />
<p>「これは買うことができるのですか？もし、できるなら私は買いますので、<br />
売っている本屋さんを教えて頂ければうれしいのですが」<br />
「…この町では売っていませんし、出版されたのは十年も前のことですから、<br />
フィレンツェでも見つけられるかどうか判らない。多分、もう絶版になって<br />
いると思います。ただ、この美術館には相当量ストックしています。<br />
取材して下さる方々の参考資料として渡したり、美術研究者などに献本したり<br />
するためにストックしていますから、遠慮しないで持って帰って下さい」</p>
<br />
<p>市庁舎を出る由紀子にクリスは十分ほど広場で待っていてほしいと<br />
告げて、オフィスに戻っていった。<br />
由紀子もプレゼントを受け取ったこともあって、<br />
もう一度ゆっくりとお礼を言いたかったから、<br />
誘いを承諾し、広場のベンチで彼を待ちながら作品集を開いた。<br />
トップページにはマリーノ・マリーニのサインが印刷され、<br />
次のページにはマリーノ・マリーニと奥さんであろう美しい<br />
女性とのツーショットが掲載されていた。<br />
しかし、その写真を見た瞬間、由紀子は驚いた。<br />
写真の見間違いなのではないのかと、何度も見直した。<br />
もしかして、クリスはこの作品集に手を加えたのではないのかと、<br />
疑心暗鬼にもなって、何度も本を見直したが、その気配はまったく<br />
なかった…。一通りの疑惑を解決した由紀子は、もうなす術はなく、<br />
呆然としたまま、クリスが来るのを待っていた…。</p>
<br />
<p>★第9章に続く★<br />
<br />
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]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/aiirari/entry-10481330092.html</link>  
      <pubDate>Sun, 14 Mar 2010 06:20:25 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>【愛の残影】■第7章■ 鐘の音色の中で</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第7章■ 鐘の音色の中で</p>
<br />
<p>由紀子に一方的に自分の気持ちを告げた青年は、<br />
朝の光の中から抜け出し、爽やかな顔で空を見上げた。<br />
そして、思い出したように広場を見回した。<br />
「お互いに自己紹介をしましょうか。いいですか？<br />
じゃ僕から。名前はクリスティアーノ・トランツァ。<br />
仲間はクリスと呼んでいます。年齢は26歳。職業は<br />
画家でマリーノ・マリーニ美術館の準芸術館員です。<br />
趣味はピストイアの夕景を描くこと。<br />
この二三年で百枚ほどの夕景の絵を描きました。<br />
一応画家ですから夕景だけではなく、色々なものを描きますが、<br />
この町の丘から見渡すトスカーナ平野の夕景は季節によって、<br />
月によって、日によって変わるんです。千変万化といっても<br />
いいくらい気象条件や空気の具合で変わります。<br />
もしかして描き手の心理状態によっても変わるのかも<br />
しれませんが、僕はその変化が面白くて描き続けているのです」<br />
自分の大好きなことを自慢げに話す子供のように、<br />
顔を赤らめ、テンションを上げて話すクリスを由紀子は、<br />
ほほえましく思った。<br />
彼はとことん絵を描くことが好きなのだとも思った。<br />
そして、彼の純朴さにも触れた気がして、心が癒されていた…。<br />
あの青い光の中にいる憂鬱な面影を<br />
たたえた青年とは異なった一面を見た気がしたから、<br />
今は胸をなでおろすようにして、安心してクリスを見ることができた。</p>
<br />
<p>自己紹介の最後は、町の夕刻時の素晴らしさを自慢する話で<br />
終わったが、クリスは一息ついてすぐに言葉を繋げた。<br />
「…僕の身勝手な告白であなたを困らせてしまったと思います。<br />
怒っていますか？あきれているかもしれませんね…。<br />
取り消しはしませんが謝ります。ごめんなさい…。<br />
でも、もし僕を嫌になっていなければ、美術館だけでも<br />
一緒に行ってもらえますか？僕の領域ですから案内したいのですが…」</p>
<br />
<p>由紀子はあまりにも恐縮しているクリスを見て笑った。<br />
そして、自分と歳が変わらない大人でありながら、<br />
純粋で穢れのない心を持つ青年が次第に眩しくなっていった…。<br />
哀しいほど純朴なクリスの心に感化されたのであろう、<br />
由紀子もいつしか自分に素直になっている自分に気がつき、<br />
クリスのように思い切って昨夜の自分を話してみようと決した。</p>
<br />
<p>「こんな私を美しいと褒めてくださったのですから、<br />
そんなに気にしないで下さい。私はとてもうれしかったのですから、<br />
だから、そんなに恐縮しないで下さい…。<br />
実は私もあなたと同じで、昨夜はあまり良く眠れなかったのです。<br />
あなたと出逢ったばかりに、気になって眠れなかったのです…。<br />
一目ぼれとは違いますが、とても気になって…。<br />
あなたの言葉に怒っていませんから、だから、<br />
あなたに美術館を案内してもらえたら私もうれしいのです。<br />
お仕事の邪魔でなかったら、お願い致します」<br />
由紀子は案内を頼んだ後、名前と歳を告げてとりあえず自己紹介を終えた。</p>
<br />
<p>お互いの胸の内を少しだけ告白し合った二人であったが、ぎこちなさは<br />
なかなかとれず、誘ったはいいものの、誘われたのはいいものの、<br />
この先、どうしたらいいのか、お互いに思案していた…。<br />
しかし、そのとき、二人の困惑を打ち消すようにして、<br />
十時の時を知らせる鐘楼の鐘の音が広場に、町中に、そして、<br />
トスカーナの高原に響き渡り始めた…。<br />
由紀子は初めて聴くピストイアの鐘の音色になぜか<br />
運命的なものを感じ、隣に立つクリスの顔を見上げた。<br />
クリスは由紀子の存在を確認するかのように、見上げた顔を<br />
じっと見つめ、次に空を仰いで鐘の音色の行方を追った…。<br />
その横顔は今までの楽しげな表情とは異なり、<br />
うつろで哀しげであり、哀しみの重さに反応するかのように、<br />
由紀子の手を握り締める手の力が少しずつ強くなっていった…。</p>
<br />
<p>鐘の音が空に吸い込まれてしまうと、クリスは由紀子の手を離し、<br />
空に向かってつぶやいた。<br />
「君にまた変なところを見せてしまいました…。でも、隠せないのです。<br />
僕は隠すことがへたくそでね。…実はこの鐘の音色は一時ですが、<br />
僕を過去に戻してしまうのです。その過去は忘れたい過去ではあるのですが、<br />
忘れてはならない過去だからです。僕はそう思って毎日、<br />
この鐘の音色に甘んじて身を投じていたのですが、でも、今日は<br />
いつもと違いました…。君の手を握っていた自分がいたのです…。<br />
驚きましたが、もしかして、この行為は何かのサインかもしれません。<br />
過去から解放される前兆なのかもしれないと思ったりしていますが、<br />
でも、今の僕には判りません。解放された方がいいのかも<br />
判りません…。ただ、好きだという思いだけではなく、<br />
君の存在が僕の心に何か変化をもたらしているような、<br />
そんな予感がしてならないのです…」</p>
<br />
<p>由紀子は自分も鐘の音色の中に、<br />
運命的なものを感じていたことを思い出していた。<br />
自分もクリスと同じ内容ではないが、<br />
鐘の音色に何かを感じていることに気がついた由紀子は、<br />
彼と同じ思いが昨夜から続くことにも驚いていた…。<br />
そして、この町を訪れたことにより、もしかして、<br />
自分の運命もなんらかの形で動き始めているのかもしれないと<br />
思った由紀子は、再度、クリスを見上げた…。<br />
彼の表情の中に自分の存在を少しだけ見ることができた由紀子は、<br />
そのとき、クリスとの世界がこの町で始まることを確信した…。<br />
未知の世界だけに怖さがあったが、通りすがりの<br />
あのドイツ人の女性が言った予言どおりだったことに<br />
驚きながら、クリスとの世界を受け入れようと心を決めた。</p>
<br />
<p>なぜならこの町は由紀子の愛するマリーノ・マリーニが生きた町<br />
であったから…。彼の生誕地だから…。<br />
自分が慕い思う場所だったから…、<br />
この地に少しの時間だけでも生きてみようと、決めた…。</p>
<br />
<p>★第8章に続く★<br />
<br />
<font size="2"><strong><font color="#990000">【あなたが生きた街】</font></strong><font color="#006633">市川昭子著作</font>が文芸社より</font><font size="2">出版。</font></p>
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      <link>http://ameblo.jp/aiirari/entry-10480490223.html</link>  
      <pubDate>Sat, 13 Mar 2010 06:40:16 +0900</pubDate> 
    </item>  
    <item> 
      <title>【愛の残影】 ■第6章■ 青年の告白</title>  
      <description> <![CDATA[ <p>■第6章■ 青年の告白</p>
<br />
<p>なぜ途中からイタリア語で話し始めたのか、聞きそびれていた由紀子に<br />
「あなたはこれからマリーノ・マリーニ美術館にゆくのですか？<br />
もし、行くのなら僕が案内したいのですがいいですか？<br />
あなたが迷惑でなかったらですが…」<br />
青年は美しいイタリア語でそう言った。<br />
青年に話しかけるチャンスをなかなか見つけられない<br />
由紀子は、返事に詰まっていると<br />
「でも、あなたはきっとなぜと思っているでしょうね。<br />
僕は強引な人だとも思っていますね？昨日の今日なのにもう<br />
あなたを誘っているのですから…」<br />
青年そう言った後、しばらく騎馬像を見上げていたから、<br />
由紀子は口を開いた。</p>
<br />
<p>「…あなたは私に英語ではなくどうしてイタリア語で…」<br />
由紀子はそこまで話したとき、どうでもいいことを尋ねている<br />
自分が恥ずかしくなり、口をつぐんだ…。<br />
青年は自分の投げかけた言葉に対しての返事ではなかったから、<br />
驚いた様子で由紀子を見つめた。そして、笑った。<br />
「そうだった…。イタリア語での会話は、僕だけ納得していました。<br />
あなたにその説明とイタリア語での会話を許してもらうことを<br />
忘れていました。自分勝手です。さっきも言ったように、本当に僕は<br />
自分が思っていることは相手も思っていると勘違いしてしまう<br />
悪い癖があるんです。謝らなくてはいけませんね。<br />
僕が英語からイタリア語に変えたのは、君はイタリア語を理解できると<br />
判ったからです。どうしてかって？<br />
だって君の手にしている地図や資料のすべてがイタリア語で書かれた<br />
ものだから。さっき、近づいたときに見えたのです。といっても<br />
イタリア語での会話ができるか否かは別ですから、<br />
とりあえず僕はイタリア語で喋ってみたのですが、<br />
僕の予想通り、君は僕の言葉に素直に反応しましたから、<br />
イタリア語を理解できる人だって判ったのです」<br />
彼の滑らかなイタリア語は、由紀子のこれまでの緊張をほぐし、<br />
気持ちを軽くさせていた。だから傍らにいた青年は、<br />
リラックスし始めた由紀子に安心したのか、<br />
明るい朝の陽光の中に言葉を探すようにして入り込んでいった。<br />
そして、光の中から顔だけを出して、少しだけ照れながら言った。</p>
<br />
<p>「昨日あなたをあの美術館の前で見たとき、あまりの美しさに<br />
驚きました…。この世の者でないような透き通った美しさに…。<br />
これまでの人生の中であんなにも美しい人を見たことがなかったから…。<br />
触って美しい感触を心に残しておきたいと思いました。<br />
僕はあなたの美しさに一目ぼれをしたと思います…。<br />
あの旧サン・パンクラツィオ教会の前で…。<br />
だからとっさに持っているここの美術館の入場券を渡したのです。<br />
このまま別れたら二度とあなたに会えないと思ったから。<br />
そして、あなたがピストイアに来たならば、<br />
必ずこの広場に来ると確信していたから、<br />
朝からあなたを待っていました…。<br />
この広場は村の中心的な存在で、中世からの建造物と<br />
マリーノ・マリーニの足跡が残るところです。<br />
村を訪れた誰もが必ずここに足を運びます。<br />
僕はあなたもきっと来ると信じていました。<br />
ただ、今日か明日か明後日かは判りませんでした。<br />
でも、僕はあなたは必ずピストイアを訪れることを<br />
信じて待とうと決心したのです。<br />
僕の話に驚いているのですね？でも、僕はあなたを<br />
ナンパしようと思って口説いているのではありません。<br />
軽い気持ちで言っているのではありません。<br />
昨晩、ずっとあなたのことばかりを考えていて、<br />
眠ることさえできなかったのです…。あまりにも君は美しすぎたから…」</p>
<br />
<p>由紀子は自分も彼と同様なことを昨夜考え、<br />
眠れずにいたことをもう一度思い返した。<br />
彼に私も同じように昨晩は悶々として、眠れなかった<br />
と言いたかったが、その理由は彼と同じように一目ぼれではなく、<br />
彼が青い光の中にいたからであり、去って行った後にも、<br />
青い光だけが残されていたからで、それを彼に言っても<br />
きっと理解に苦しむだろうしと思いながら、由紀子は、<br />
ホテルの前で会ったあの婦人が残した言葉を思い出していた。</p>
<br />
<p>“～でも、本当におきれいですこと…。<br />
こんなに美しい今日のあなたを<br />
恋人に見せなくっちゃいけませんね。<br />
なぜって？生きている一生の中で僅か数度だけですが、<br />
後光が差し、この世のものでないような美しさを見せる人が<br />
いるんですよ。もちろん、選ばれた人のみですけれど。<br />
あなたは今、選ばれた人になり、その余りある美しさを私たちに<br />
見せてくれています…。ですからあなたをずっと見ていたいのですが、<br />
私には仲間が待っていますから…。もうお別れです。<br />
お別れですから、もう一度言いましょうね。<br />
今の美しさを恋人に見せるんですよ。<br />
恋人がいなかったら、あなたが気になる人に見せるのです。<br />
その人ときっといいことがありますから…”</p>
<br />
<p>★第7章に続く★</p>
<p><br />
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]]> </description>  
      <link>http://ameblo.jp/aiirari/entry-10479662708.html</link>  
      <pubDate>Fri, 12 Mar 2010 06:25:15 +0900</pubDate> 
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